平成24年司法試験刑事訴訟法

平成24年刑事訴訟法を解いていきます。

 

 

 設問1

第一捜査①の適法性

1.刑事訴訟法218条1項に基づく捜索差し押さえを行うためには、捜索差押許可状が発付され、その捜索差押許可状に基づき捜索差押が行われたといえなければならない。また、刑事訴訟法102条1項によれば、捜索差し押さえの対象となる場所は、被告人の身体、物又は住居とされている。

 本件事案において、Kは甲に対する覚せい剤取締法違反の被疑事実についての捜索差押許可状の発付を得ているが、場所はT株式会社内とされている。そのため、捜査官はT株式会社内について捜索差し押さえを行うことができる。また、刑事訴訟法102条1項の場所の範囲に物がある場合、その物についても同一人物のプライバシーが及んでいることから、物は場所のプライバシーに包摂されると解される。そのため、KはT株式会社内の物の中身についても捜索差し押さえを行うことができる。

 本件事案において、甲はT株式会社内に捜索差押の開始後に届いた宅配便荷物を受け取っているため、これらの荷物についてT株式会社内のプライバシーに包摂されたということが言えそうである。

 これに対して、乙宛てに届いた荷物については乙のプライバシーが及んでいることが明らかであることから、乙あての荷物について捜索差し押さえを行うことはできなさそうである。しかし、Kは甲の携帯電話の確認作業を行い、乙あての荷物についても甲のものが混在しているとのメールが発見されたことから、この乙あてに届いた荷物についても甲のプライバシーが及んでいるということができる。

2.したがって、Kは甲に対する刑事訴訟法218条1項の捜索差押えとして、乙あてに届いた荷物の捜索差し押さえをすることができる。

 第二捜索差押許可状に基づく捜索としての捜査②の適法性

1.刑事訴訟法218条1項に基づく捜索差押が適法であるといえるためには、捜索差押許可状が発布されたことと、その捜索差押許可状に基づいて捜索差押が行われたといえなければならない。また、捜索差押の行われる範囲は刑事訴訟法102条1項の被告人の身体、物又は住居とされている。さらに、住居について捜索差押許可状が発布された場合、その場所に包摂される物についても捜索差し押さえを行うことができるとされている。

 本件事案において、Kは甲の覚せい剤取締法違反の被疑事実についての捜索差押許可状の発付を受けており、捜索差押の範囲もT株式会社ないとされていた。そのため、KはT株式会社内にロッカーがあったとしても、そのロッカーはT株式会社の場所のプライバシーに包摂されるため適法に捜索差し押さえを行うことができるといえる。そのため、T株式会社内の乙のロッカーについても捜索差し押さえを行うことができるといえそうである。

 これに対して、乙のロッカーについては乙のプライバシーが及んでいることは明らかであることからT株式会社内のプライバシーに包摂されないとの反論が考えられる。しかし、乙のロッカーについては甲がカギを管理しており、甲も乙のロッカーの中身について介入することが可能であるから、明らかに乙のプライバシーが及んでいるとは言えない。

 そのため、乙のロッカーについてもT株式会社内のプライバシーに包摂されたということができ、乙のロッカーについても甲に対するT株式会社内の捜索差押許可状で適法に捜索差し押さえを行うことができる。

2.したがって、Kが甲に対する刑事訴訟法218条1項の捜索差押として乙のロッカーについて捜索差し押さえを行った行為は適法であるということができる。

第三現行犯逮捕に伴う捜索差押としての捜査②の適法性

1.刑事訴訟法220条1項2号によれば、現行犯逮捕をする場合において必要がある場合逮捕の現場で捜索差し押さえを行うことができるとされている。

 本件事案において、乙は、乙あての荷物の中に覚せい剤が発見されたことから刑事訴訟法212条1項の現に罪を行った者に当たるとして刑事訴訟法213条に基づき無令状で逮捕されている。

 また、刑事訴訟法220条1項2号で捜索差押ができるとされているのは、逮捕された被疑者の同一の管理権が及ぶ場所については被疑者が証拠物を持っている蓋然性が高いとされていることからである。そのため、逮捕された被疑者の同一の管理権が及ぶ場所について捜索差し押さえをすることができるといえる。

 本件事案において、乙はT株式会社内にロッカーを有しており、このロッカーの中について管理していることから、逮捕された乙と同一の管理権が及んでいるということができる。そのため、T株式会社内の乙のロッカーは捜索差し押さえを行うことのできる場所であるということができる。

 また、捜索差し押さえを行う必要があるといえるためには、証拠物の存在する蓋然性がなければならない。本件事案において、乙の携帯電話や手帳等が見つかっておらず、乙がT株式会社内のロッカーにおいて管理している可能性が認められたことから、証拠物の存在する蓋然性はあるといえる。

 したがって、Kは現行犯逮捕に伴う捜索差押として適法に乙のロッカー内について捜索差し押さえを行うことができる。

2.したがって、現行犯逮捕に伴う捜索差押としてもT株式会社内の乙のロッカーについて捜索差し押さえを行った行為は適法であるということができる。

設問2

1.刑事訴訟法上訴因について審理判断すべきとされていることから、訴因と異なる事実認定を裁判所が行う場合原則として刑事訴訟法312条1項に基づく訴因変更が必要となる。しかし、訴因変更を原則として必要とする趣旨は被告人にとって不利益な事実認定が行われ不意打ちを受けることを防止するためにあるとされていることから、その事実認定が被告人の防御にとって重要でなく不意打ちにも当たらない場合、訴因変更を経ることなくその事実を認定することができる。

 本件事案において、資料1の覚せい剤の単純所持の単独犯の公訴事実から資料2の覚せい剤の営利目的所持の丙との共同正犯の事実を認定しているといえる。また、この覚せい剤の単純所持と営利目的所持とでは覚せい剤取締法41条の2第1項、第2項によれば懲役刑の上限が単純所持の場合では10年とされ、営利目的所持では懲役刑の上限が20年とされていることから、営利目的の事実を認定することは被告人に不利益であるといえる。

 そのため、覚せい剤所持の目的が営利目的であるか否かということは被告人の防御にとって重要なものということができる。

 確かに本件事案において甲の弁護人Bは丙との共同正犯による営利目的所持の事実の主張を行っているものの、これは最善弁護であるといえないため適法なものでない。したがって、弁護人Bの主張があったとの事実については、事実認定の変更が不意打ちでないということの推認に用いることはできるものの、被告人にとって不利益でないということはできない。

 したがって、裁判所が資料2の事実を認定するためには訴因変更が必要であったということができる。

2.よって、訴因変更手続きを経ずに資料2の事実認定を行った裁判所の行為は違法であるということができる。

 以上

 (設問2の解答についてどえらい間違いがある。)