平成26年司法試験民事訴訟法
設問1
1.訴訟上の和解について表見法理を適用することができるか検討する。
判例上、民法や商法上の表見法理は取引の安全性を確保するためのものである上、民事訴訟法338条1項3号で再審事由とされていることから訴訟法上表見代理を援用できないとされている。また、民事訴訟法338条1項3号によれば、代理権の不存在については再審事由とされているため、表見法理を認めると手続きの安全性を欠くため表見法理を訴訟法上適用することはできないとされている。
しかし、和解においては当事者が自由に権利を処分することができるため、純粋に訴訟法上の要請のみから判断することはできない。さらに、訴訟上の和解の際でも自己の権利を処分するのであるから、取引の安全性を図る必要があるといえ、さらに、和解の場合には再審事由のみでなく訴訟上の和解契約の解除や、期日指定申し立てによる口頭弁論の再開が認められているのであるから、手続の安定性はそれほど重視しなくともよい状態にある。
そのため、訴訟上の和解においても表見法理を用いることができる。
2.本件事案においてB社の代表取締役でないCとの間で訴訟上の和解契約が成立しているが、上記の通り、訴訟法上の和解契約については表見法理を利用できるため、本件事案において、Cを表見代理人とするB社との表見代理による契約が成立したということができる。
設問2
1.Aは本件和解の際に和解条項第一項についての授権をL2弁護士に与えていないにもかかわらず、和解を行ったことを理由として和解条項第一項は無効であると主張しているが、このような主張が認められるか検討する。
民法55条1項によれば、弁護人には訴訟代理権が与えられ、民事訴訟法55条2項2号に基づき和解についての訴訟代理権が与えられるとされている。この和解の際に弁護人は訴訟代理権の範囲で和解をすることができるものの、この訴訟代理権の範囲は、当事者の訴訟の対象物でなくとも、和解をするのに必要な範囲において処分する権限が認められるとされている。
本件事案においてL2は被告Aが和解期日当日に出席しない間に謝罪に関する和解条項である和解条項第1項を締約している。
しかし、AはL2に民事訴訟法55条2項2号の和解に関する特別授権を与えていることから、L2は和解に関して和解契約を結ぶのに必要な範囲で代理権が授与されていたということができる。和解条項第1項は謝罪に関する内容であり、Aの他の権利を処分するものでない。さらに、この和解条項を和解の内容に含めることは、和解契約の締約にとって重要であったことからL2の訴訟代理権の範囲にこの和解条項第1項を締約することが含まれていたということができる。
2.したがって、和解条項第1項を締約したL2の行為は適法であり、AはXとの間で本件和解契約の内容を争うことができない。
設問3
1.民事訴訟法267条によれば、訴訟上の和解には確定判決と同一の効力を有するとされていることから、民事訴訟法114条1項の既判力も訴訟上の和解契約に発生するとされている。そのため、訴訟上の和解において締約された内容を蒸し返し、和解契約の内容に反する主張をすることはできないとされている。
本件事案においてAはXとの間で本件和解条項第2項で損害賠償の額は150万円であるとし、和解条項第5項でこの和解条項のほかに何らの債権債務は存在しないとの内容の和解契約を締約している。しかし、Xは後遺症が発生したことから、この訴訟上の和解において締約した内容と反してAに対して更なる損害賠償請求を求めている。この訴訟物は前訴和解契約で締約した損害賠償請求権と同一のものであり、更に前訴の和解契約の内容と矛盾するものであることから、既判力の作用により遮断されると考えられる。
2.しかし、民事訴訟法117条1項によれば、前訴において定期金賠償を命じた場合、口頭弁論終結後に損害賠償の算定の基礎となった事情について著しい変更が生じた場合には変更を求める訴えを提起することができるとされている。
このような規定がおかれたのは、定期金賠償について、判決以後に変化が生じたにもかかわらず、口頭弁論終結後の事情に拘束されるのは不合理であることを理由としている。このことは清算条項がおかれた和解契約においても同様に清算の基礎とした理由については前訴の甲と弁論終結時点の事情に拘束されるのは不合理であるといえる。そのため、民事訴訟法117条1項類推適用により、清算条項付和解が成立した後にその清算条項付和解の基礎とした事情について著しい変更が生じた場合和解の変更を求める裁判を提起することができると考えられる。
本件事案において、XはAとの間で和解条項第5項のような清算条項のついて和解契約を締約している。この清算条項付和解を締約したにもかかわらず、Xには本件事故による後遺症が発生しており、これによって本件和解契約の和解条項第2項で締約した損害賠償の額では不足する事態になり、清算条項を設けた基礎に重大な変更が生じたということができる。さらに、この後遺症についてXは予見できなかったのであることから、変更を求める訴えを提起するやむを得ない事情もあるということができる。
3.したがって、本件事案においてXは和解契約の内容の変更を求めて民事訴訟法117条1項類推適用により訴えを提起することができるといえる。
以上