今回は、新株予約権の発行の差し止めに関する問題です。
この問題は、企業の買収防衛策とも関係しているので、買収防衛策についての企業の戦略などにも関心のある方はこの辺りから会社法に興味を持ってもらえると嬉しいです。
下書き
設問(1)
会社法247条1号の事由は、募集新株予約権の場合に限られている。しかし新株予約権の無償割り当てによる場合でも、株主の地位に変動をもたらすため、会社法247条の規定が類推適用される。
また、会社法241条、309条6号によれば、新株予約権の発行を行うためには株主総会の特別決議が必要であるとされている。
→本件事案において、株主総会の特別決議でなく株主総会決議によって決議が行われているため、会社法241条、309条6号についての法令違反がある。
設問(2)
この場合会社法241条、309条2項6号の違法はない。
会社法109条1項の規定は、新株予約権の規定には直接及ばない。しかし、会社法278条2項によれば、新株予約権の内容について株式の数に応じて割り当てなければならないことを規定していることから、会社法109条の趣旨が及ぶと解されている。
「株主平等の原則は個々の株式の利益を保護するため、会社に対し、株主をその有する株式のないようおよび数に応じて、平等に取り扱うことを義務付けるものであるが、個々の株式の利益は、一般的には、会社の存立、発展なしには、考えられないものであるから、特定の株主による経営支配権の取得に伴い会社の存立、発展が阻害されるおそれが生ずるなど、会社の企業価値が毀損され会社の利益ひいては、株主の共同の利益が害されることになる場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、当該取り扱いが公平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、これを直ちに株主平等原則の趣旨に反するものではない。」(最高裁平成19年8月7日決定)
→本件事案における新株予約権の発行は、
本件事案において、Xによる経営支配権の獲得によって、Y社の企業価値の毀損が起こらないため、株主の共同の利益が害されることになる場合とは言えない。
また、本件事案におけるY社によるXへの新株予約権の行使の禁止は、Xの権利行使を否定するものであるため、本件事案における取り扱いは、公平の理念に反し、相当性を欠くものということができるため、株式平等の原則に反する。
ただし、最高裁平成19年8月7日決定によれば、「本件総会において、本件議案は、議決権総数の約83.4%の賛成を得て可決されたものであるから、X関係者以外のほとんどの既存株主が、Xによる経営支配権の取得がY社の企業価値を毀損し、Y社の利益ひいては、株主の共同の利益を害することになると判断したものということができる。」と判断している。
→これは、最高裁平成19年8月7日決定の事案における原告の特殊事情によるものと考えるべき。
新株予約権の無償割り当てが、会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためではなく、もっぱら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合には、その新株予約権無償割り当ては原則として著しく不公正な方法によるものである場合には、その新株予約権は原則として著しく不公正な方法によるものと解すべきとされる。(最高裁平成19年8月7日決定)
→本件事案における新株予約権の発行は、経営支配権の維持を目的としたものであるため、著しく不公正な方法による新株予約権の無償割り当てということができる。
設問(3)
新株予約権の行使としての新株発行を行う場合にも新株予約権の法令定款違反の事由を使うことはできる。
東京高裁平成20年5月12日決定によれば、新株予約権の行使による新株の発行であっても、新株発行差し止めの事由になる。
答案
設問(1)
1.会社法247条によれば、会社の新株予約権の発行の差止をすることができるとされている。この規定は、募集新株予約権の発行を差し止める規定となっているが、新株予約権の無償割り当ての場合でも株主の地位に変動をもたらすため、会社法247条を類推適用して差し止めることができる。
また、会社法241条、309条2項6号によれば、新株予約権の無償割当を行うためには株主総会の特別決議が必要であるとされている。
本件事案において、Y社は新株予約権の無償割当について株主総会決議を行っているが、Xの持ち株比率は34.9%であることから、この株主総会決議は会社法309条2項の特別決議によるものでないということができる。
2.したがって本件事案において、Y社は会社法241条、309条の法令に違反した新株予約権の無償割当を行っているため、Xは会社法247条1号により新株予約権の無償割当の差止を行うことができる。
設問(2)
1.この場合、会社法241条、309条2項違反の事由はないということができる。しかし、以下のような事由について検討する必要がある。
(1)株主平等原則違反
会社法247条1号は新株予約権の発行について法令又は定款の規定に違反している場合に新株予約権の発行を差し止めることのできる規定となっている。
会社法109条1項は株主平等原則について定めた規定であるが、新株予約権も新株予約権の内容と数に応じて平等に取り扱うべきであることが会社法上予定されているため、この規定の趣旨は、新株予約権にも及ぶとされている。そのため、新株予約権について株主平等原則の趣旨に違反している場合には法令違反があるということになる。しかし、株主の共同の利益は会社発展なしには考えられないものであるため、特定の株主による経営支配権の獲得が行われ、それによって会社価値が毀損されるといえる場合には、株主を差別的に取り扱ったとしても、その手段が相当なものでない限り許されると考えられている。
本件事案において、Y社は平成29年3月15日の株主総会で新株予約権の無償割当を行う旨の株主総会決議を行っているが、この新株予約権には、譲渡についてY取締役会の承認を必要とする旨の譲渡制限条項とX及びXの関連会社に割り当てられた新株予約権は行使することができない旨の条項が設けられている。そのため、この条項により、Xらは株式の数およびなおようにかかわりのない他の株主と異なる不利益を受けているということができる。
また、このようなXへの不利益を与えるに当たり、Xによる経営権獲得があった場合にYの企業価値の毀損が発生するような事情はないため、Xを不平等に扱う例外的な事情もない。確かにX以外の株主が本件新株予約権の無償割当について賛成しているといっても本件事案のような事情のもとにおいては、このことから直ちに会社の企業価値の毀損のおそれがあるということを株主が認めたといえないため、相当多数のものの賛成により無償割当が行われたことは、会社の企業価値の毀損のおそれがあることを認める事情とはならない。
したがってYの新株予約権の無償割当には会社法109条1項の法令違反があるといえる。そのため、会社法247条1号によりY社の新株予約権の無償割当を差し止めることができる。
(2)不公正な方法による無償割当
また、会社法247条2号は、新株予約権の発行について、不公正な方法によるものである場合には新株予約権の発行を差し止めることができるとされている。
この会社法247条2号の不公正な方法による新株予約権の発行の場合とは、新株予約権の発行が資金獲得目的でなく会社の経営権の維持を主要な目的とする発行であるといえる場合を指すとされている。
本件事案において、Y社は新株予約権の無償割当を行っているが、この新株予約権の無償割当は、Y社の経営陣とXとの間で経営権争いが生じていた時期に行われたものであり、また、Xに不利益な条項を設け、この条項があることにより、Xの議決権割合が低下することが見込まれていたのであることから、Y社の新株予約権の発行は資金獲得目的でなく、会社の経営権の維持を主要な目的としていたと認められる。
したがって会社法247条2号によって新株予約権の無償割当を差し止めることができる。
2.そのため、設問(2)の場合も設問(1)の場合と同様に新株予約権の発行の差止をすることができる。
設問(3)
1.新株予約権の行使として新株の発行を行う際にも、新株予約権の発行について法令違反の事実があったことを理由として会社法210条に基づき新株の発行差し止めを行うことができる。
本件事案において、Y社は会社法241条、309条に違反して新株予約権の無償割当を行っているため、会社法210条1号の事由があるということができる。
2.したがってXはこの場合にも新株の発行を差し止めることができる。
企業の買収防衛策について興味のある方は、ニッポン放送対ライブドア事件に関するこれらの本を読んでみることをお勧めします。
ライブドアにかかわった村上氏の書いた、本もあります。
この障害投資家を読む限り、どうも、村上ファンドとライブドアのそれぞれの企業買収についての考え方には違いがあったようです。