事例から刑法を考える 事例14

刑法事例演習教材のほうに原因において自由な行為の問題がないので、こちらの問題を解いてみることにしました。

原因において自由な行為の書き方は(責任モデルの場合)、①心神喪失心神耗弱の事実を認定する、②原因行為の段階で完全な責任能力が認められ、しかも、結果発生に向けられているか判断するの順に検討すると考えているのですが、合っているのでしょうか?

おかしいとのことでしたら、コメントで教えてください。

 

事例から刑法を考える 第3版 (法学教室ライブラリィ)

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第一.Xの罪責

1.傷害罪の成否

 刑法204条の傷害罪が成立するためには、人の身体を傷害したといえなければならない。

 本件事案において、XAを手拳で殴打し、顔面を骨折させているため、XAの身体を傷害したということができる。

2傷害致死罪の成否

 刑法205条の傷害致死罪が成立するためには、人の身体を傷害し、人を死亡させたといえなければならない。

 本件事案において、XAの腹部に包丁で創傷を与え、出血多量で死亡させているため、XAに傷害を与え、その結果Aを死亡させたということができる。

3.責任軽減及び原因において自由な行為

 刑法392項によれば、心神耗弱で犯罪を犯した場合、責任軽減がされる。この心神耗弱とは、精神の障害により、自己の行為の是非を判断することが困難な状態を指す。

 本件事案において、XAに出刃包丁で傷害を与えた時点において自己の是非善悪を弁別し、その行為を制御することが著しく困難となっていたことが認められるため、Xは刑法392項の心神耗弱状態にあったということができる。

 しかし、実行行為の原因行為時点で責任能力が認められ、その原因行為時点で実効行為に出る意思があれば、その原因行為時点で責任非難が可能であるため、刑法39条による責任阻却、責任軽減はできないと考えられている。

 本件事案においてXは酒を飲み始めた時点において、完全な責任能力が認められ、Aに暴行を加える目的で暴行を加えるなどしていたため、原因行為時点で傷害致死罪に該当する行為を行う意思があるということができる。

 よって、Xは刑法392項の責任軽減はされない

3.過失致死罪の成否

 刑法210条の過失致死罪が成立するためには、実行行為として、結果回避義務違反行為が認められ、人を死亡させたといえなければならない。

 本件事案においてXは足元のBに注意を払うことなく室内で暴れ回っており、Xは結果回避義務違反行為を行ったということができる。また、この結果Bを死亡させているため、Xは結果回避義務に違反して人を死亡させたといえる。

 また、過失犯とは責任態様の一つであるため、過失犯が成立するためには、予見可能性が認められなければならない。

 本件事案において、Xは足元に注意を払えばBを発見することが可能であったということができるため、予見可能性はあったということができる。

 したがってXは刑法210条の過失致死罪に該当する行為を行ったということができる。

4.責任軽減

 刑法392項によれば、心神耗弱状態で犯罪を犯した場合、責任軽減が認められる。

 本件事案においてXBを死亡させた時点においてXは自己の行為の是非善悪を弁別し、その行為を制御することが著しく困難となっていたため、X心神耗弱状態であったということができる。

 しかし、実行行為の原因行為時点で責任能力が認められ、その原因行為時点で実効行為に出る意思があれば、刑法39条の責任阻却、軽減はされないとされる。

 本件事案において、XBを死亡させる原因となった飲酒を行った時点でXには完全な責任能力が認められる。しかし、Xが飲酒を開始した時点でBを過失により踏む意思はなかったため、この例外は認められない。

 したがって、Xには刑法210条の過失致死罪が成立し、刑法392項により責任が減軽される。

5.罪数

 したがって、Xには傷害罪、傷害致死罪、過失致死罪が成立し、このうち過失致死罪は刑法392項により責任軽減がされる。これらの罪は刑法45条により併合罪となる。

第二.Yの罪責

1傷害致死罪の成否

 間接正犯として、背後者に責任が認められるためには、犯罪の結果原因支配と、間に入った者が無答責であると認められなければならない。

 本件事案において、X傷害致死罪の罪責を負いうるものであるため、Xが無答責であるということはできない。

 したがって、Yが単独正犯として罪責を負うことはない。

2傷害致死罪の幇助犯の成否

 刑法621項の幇助犯が成立するためには、正犯者に対して物理的または心理的に促進的因果性を有する行為を行ったといえなければならない。

 本件事案において、YAXのいる屋内に突き飛ばし、玄関ドアを外から閉め、ドアを必死に押さえつけ、X傷害致死行為を助けているため、YXAに対する傷害致死行為について促進的因果性を有する行為を行ったということができる。

 したがってYには傷害致死罪の幇助犯が成立する。

3.緊急避難

 刑法371項本文により緊急避難が認められるためには、①現在の危難が存在し、②避難意思の下に避難行為を行ったといえ、③補充性、④相当性を満たす行為でなければならない。

(1) 現在の危難とは、危難が現在のものとなっていること又は間近に差し迫っていることを指す。

 本件事案において、出刃包丁を持ったXYの方に向かってきており、Aに突きかかろうとしているため、危難が間近に差し迫っていたということができる。

(2)また、Yは殺されないようにするためにAを屋内に突き飛ばしていることから、避難意思もあったということができる。

(3)補充性を満たすためには他の行為をすることができないという事情がなければならないが、本件事案において、Xは足元がおぼつかない様子であり、直前に転倒していたことから、YAを突き飛ばし、玄関ドアを閉めることなく逃走することも可能であったため、補充性は認められない。

(4)したがって刑法371項の緊急避難は成立しない。

4.したがってY傷害致死罪の幇助犯としての罪責を負う

 

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基本刑法I 総論 第3版

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