令和3年司法試験再現答案刑法

令和3年司法試験刑法の再現答案を上げておきます。

これでA評価でした。

 

設問1

第一.丁の罪責

1.丁は丙から本件バッグを預かっていたところ、某月10日に本件バッグの中身が本件腕時計40点であることを確認している。本件バッグの中身が本件時計40点であると確認したにもかかわらず、丙のために本件バッグを預かり続けているがこのような丁の行為が刑法256条2項の盗品保管罪に該当するか検討する。

(1)刑法256条2項の盗品保管罪が成立するためには、盗品であるとの認識のもと委託を受けて盗品を保管したということが言えなければならない。

 本件腕時計は甲及び丙が領得罪によって取得した物であるため、盗品に当たるということができる。

 また、丁は丙より本件バッグを預かるよう言われているため、委託によるものであるということができる。

 確かに本件バッグを預かる際に本件バッグの中身は盗品であるといわれていないものの丁は某月10日に本件バッグの中身は盗品であると認識しているため、盗品であるとの認識のもと保管していたということができる。

(2)したがって、丁には刑法256条2項の盗品保管罪が成立する。

2.よって丁には盗品保管罪一罪が成立する。

第二.甲の罪責

1.甲は乙とB店における腕時計の強盗を計画し某月3日に甲がB店に押し入り本件腕時計を奪取しているが、このような甲の行為が乙との共謀共同正犯による刑法236条1項の強盗罪に当たるか検討する。

(1)刑法236条の強盗罪が成立するためには、相手方の犯行を抑圧する程度の暴行または脅迫を行い、財物を強取したということが言えなければならない。

 しかし、本件事案において、甲は強盗を装うため、あらかじめ意思連絡を行った丙に対して脅迫を行っていることから、丙の意思を抑圧する程度の脅迫が行われているということができない。

(2)そのため、甲の行為は刑法236条1項の強盗罪には該当せず、乙との共同正犯による強盗罪は成立しない。

2.甲は丙とB店において腕時計を領得するため、強盗被害にあったことを装うことを計画したうえで、某月3日に強盗被害を装いB店の本件腕時計を持ち出しているが、このような行為が丙との共同正犯による刑法235条の窃盗罪に該当するか検討する。

(1)刑法235条の窃盗罪が成立するためには、他人の占有する財物を不法領得の意思のもと窃取したといえなければならないとされる。

 本件腕時計はB店のショーケースに保管されていたため、B店の占有下にあった財物であるということができる。

 また、窃取したといえるためには、相手方の意思に反した自己の支配下への占有移転がなければならないところ、本件事案において、甲は会計等をせずに本件腕時計を持ち出しているため、相手方であるB店の意思に反するものであるということができる。本件バッグに腕時計を入れ持ち出すと、B店が取り返すことが困難になるため、甲のもとへの占有移転があったということができる。

 不法領得の意思とは利用者排除意思と利用意思が認められることを指すところ、甲はB店より持ち出すことを目的としているため、利用者排除意思があるということができ、さらに、金銭を得る目的で本件腕時計を領得していることから、経済的用法に従った利用意思が認められる。そのため、甲は不法領得の意思のもと本件腕時計を領得したということができる。

(2)また、刑法60条の共同正犯と認められるためには共同して犯罪を実行したということが言えなければならない。共同して実行したといえるためには、正犯意思のもと共同して犯罪を実行したといえなければならない。また、共謀共同正犯の場合、複数人が謀議して謀議のもと各人の犯罪を実行したといえなければならない。

 本件事案において、甲と丙は腕時計が強奪されたように装うため、犯罪計画について謀議している。また、この謀議に従って、丙がB店のショーケースを開け甲が本件腕時計を持ち出していることから、謀議に基づいた犯罪を実行しているということができる。そのため、甲と丙は正犯意思のもと共同して犯罪を実行したということができる。

 したがって、甲は刑法60条の共同正犯としての罪責を負う。

(3)したがって、甲には丙との共同正犯による窃盗罪一罪が成立する。

第三.丙の罪責

 丙は甲とともにB店の本件腕時計を持ち出しているが、このような行為が共同正犯による窃盗罪に該当しないか検討する。

(1)刑法235条の窃盗罪が成立するためには、他人の占有する財物を不法領得の意思のもと窃取したといえなければならないとされる。

(2)他人の占有する財物に当たるかどうかは占有の態様、意思をもとに判断するとされる。

 本件事案において、本件腕時計はB店のショーケースの中に保管されているため、外形的にB店が占有者であったということが認められる。また、確かに丙はB店の副店長としてB点で勤務し売上管理業務、鍵の保管業務に従事しているものの、商品の仕入れ、店外への持ち出し及び価格設定について権限がなくすべてCの承認を得る必要があったことから、B店は丙に本件腕時計の占有権限を与えていなかったということができる。そのため、本件腕時計は他人であるB店の占有する財物に該当するということができる。

 窃取したといえるためには、相手方の意思に反する占有移転がなされたといえなければならないところ、丙は甲との計画のとおり持ち出すことが許されていないにもかかわらず、本件バッグに本件腕時計を入れ、甲に持ち出させていることから、B店の意思に反する不法な占有移転が行われたということができる。

 したがって、丙には窃盗罪が成立する。

(3)また、先述のとおり、丙は甲との刑法60条の共同正犯として窃盗を行っていることから丙には甲との共同正犯による窃盗罪が成立する。

2.したがって、丙は甲との共同正犯一罪が成立する。

第四.乙の罪責

1.乙は甲とB店において、腕時計を強取する計画を立て、甲はB店より本件腕時計を奪取しているが、この乙の行為が共同正犯による強盗罪に該当するか検討する。

(1)刑法236条1項の強盗罪が成立するためには、相手方の意思を抑圧する暴行または脅迫を行い他人の財物を強取したといえなければならない。

 しかし、本件事案において甲は丙と共謀のうえB店で強盗被害を装った本件腕時計の窃盗を行っているにすぎない。

(2)そのため、乙には甲との共同正犯による強盗罪は成立しない。

2.乙は甲と丙がB店において本件腕時計を摂取している間自動車内において見張りをしているが、この行為が甲の窃盗罪に対する共同正犯に当たらないか検討する。

(1)先述のとおり、甲は窃盗罪の共同正犯を行っているため、窃盗罪は成立するといえる。

(2)刑法60条の共同正犯が成立するためには、共同して犯罪を実行したということが言えなければならない。共同したといえるためには正犯意思を共同し、正犯行為を実行したといえなければならない。本件事案において、乙は甲とともに犯罪を実行する意思はあるものの、乙が行った行為というものは甲が強盗をするために、甲をB店まで自動車で連れて行き、見張りをするというものであり、窃盗を共同して行う意思を有していない。また、乙の行為は謀議、見張りといったものであり窃盗の実行のために重要なものではない。さらに、本件腕時計の分け前も乙だけ個数が少ないことから、甲も乙の行為は重要ではないとみていたことが考えられる。

 そのため、乙には甲との共同正犯は成立しない。

(3)しかし、幇助犯が成立することが考えられるため、検討する。

 刑法62条1項によれば、幇助犯が成立するためには、物理的または心理的に促進的因果性を有する行為を行ったといえなければならない。

 本件事案において、乙は自動車で見張りなどをしているが、この行為によって、B店内に通行人が入ったとしても乙により連絡があるとの安心感から犯罪の遂行を容易にすることができたといえる。

 そのため、乙の見張り行為などは刑法62条1項の幇助に当たるということができる。

(4)しかし、乙が認識しているのは強盗の共同正犯であることから、刑法38条1項本文によって故意が阻却されないか検討する。

 刑法38条1項本文によれば、故意が認められるためには罪となるべき事実についての認識がなければならない。また、構成要件が異なる場合、成立した犯罪と認識した犯罪との構成要件的符合によって故意があったかが判断される。

 本件事案において、乙は甲の窃盗罪の幇助を行っているが、乙は甲が強盗を行っているものと認識しているため、窃盗罪の故意がないといえそうである。しかし、強盗罪と窃盗罪は両方とも財産権を保護法益とするものであり、どちらも財物の奪取行為を犯罪としていることから、構成要件的重なり合いが認められる。

 そのため、乙に窃盗幇助の故意がないとは言えない。

(5)したがって、乙は刑法235条の窃盗罪のほう助を行ったということができる。

2.よって、乙は窃盗罪幇助一罪についての罪責を負う。

設問2

第一.刑事責任を負わないとの立場

1.まず、全治三週間の頭部裂傷の傷害と甲の木刀による殴打行為との間に因果関係がないことを主張すると考えらえる。

 因果関係が認められるためには、条件関係があることを前提として実行行為の危険が結果に現実化したといえる関係になければならない。

 しかし、本件事案において、甲も丙も乙の頭部への木刀での殴打行為にかかわっており、甲の殴打行為がなければ3週間の頭部裂傷の傷害を負わなかったという関係にはない。

 そのため、甲の行為と傷害の発生との間に因果関係は認められず、甲は乙の頭部裂傷について罪責を負わない

2.次に仮に甲と丙との間で刑法60条の共同正犯が成立したとしても、某月30日の午後8時5分以前の時点で甲は丙に殴られ気絶しており、共犯関係から離脱したと主張することが考えられる。

 刑法60条の共同正犯が成立するためには、犯罪を共同して実行したといえなければならないが、共同正犯が処罰されるのは犯罪の因果を共にした点に求められるため、犯罪の途中で因果を共有しなくなったといえる場合それ以後の犯罪について共同正犯としての罪責を負わなくなる。

 本件事案において、甲は丙と共同して乙に対して傷害を加えているが、甲は丙に殴打されて気絶しており、午後8時5分以降の暴行に加わっていない。そのため、午後8時5分以降の行為について甲は物理的因果も心理的因果も断ち切っているといえ、午後8時5分以後の暴行すなわち、丙が木刀で乙の頭部を殴った行為について罪責を追わないということができる。

そのため、甲は乙の頭部裂傷について罪責を負わない。

第二.罪責を負うとの主張

1.因果関係がないとしても刑法207条の同時傷害の特例により共同正犯の罪責を負うことになると乙の頭部裂傷について因果関係を有することになる。そのため、甲と丙の暴行は刑法207条の同時傷害に該当するか検討する。

 刑法207条の同時傷害の特例が成立するためには、二人以上で暴行を加えたこと、そのような傷害を生じる危険性のあるものであること、時間的場所的近接性があることが認められなければならない。

 本件事案において乙に暴行を加えたのは甲と丙であり二人以上で暴行を加えたということができる。

 また、木刀で頭部を殴る行為というものは頭部裂傷を生じさせる危険のあるものであることが認められる。

 さらに、甲と乙が傷害を加えたのは甲の自宅という場所であり、8時から8時5分までの短時間の間に行ったことから、時間的場所的近接性が認められる。

 そのため、甲の木刀による殴打と丙の木刀による殴打は刑法207条により共同正犯によるものと認められる。

 よって、甲と丙の行為と乙の頭部への傷害との間には因果関係が認められるため、甲は乙の頭部の傷害についての罪責を負う。

2.次に、甲は共犯関係から離脱したと主張するが、因果関係が残っているため、甲の共犯離脱は認められないと反論することが考えられる。

 刑法60条の共同正犯が認められるためには因果性を共有したということが認められなければならないため、共犯の因果性が遮断された場合その遮断された後の行為について罪責を負わないとされる。

 本件事案において、確かに甲は午後8時5分までに丙によって気絶させられているものの、甲の自宅まで乙を呼び寄せたのは甲であり、木刀を準備したのも甲であるうえ、この木刀を用いて丙は殴打行為を行っているため、物理的因果は残存しているといえる。また、甲と丙は共謀したうえで暴行に及んでいるため、心理的因果性も残存しているといえる。

 そのため、甲が午後8時5分に気絶させられたとしても共犯関係から離脱し、以降の丙の行為について罪責を負わないとは言えない。

 したがって、甲は乙の頭部裂傷について罪責を負う。