令和4年司法試験再現答案刑法

令和4年司法試験刑法の再現答案を置いておきます。

最後に書いた自招危難が余計なような気がします。

この答案はC評価でした。

設問1(1)

1.刑法252条1項の横領罪が成立するためには、「自己の占有する他人の物」に該当しなければならない。ため、これに該当するか検討する。

 刑法252条1項の横領罪が成立するためには書かれざる要件として委託関係にあることが要件とされている。本件事案において甲はAにバイクの保管を頼まれているため、委託関係にあることが認められる。

 「自己の占有する」物に該当しなければならないところ、甲はバイクを保管しているため、「自己の占有する物」に当たるといえる。

 横領罪の保護法益は所有権であるとされる。そのため、「他人の物」とは他人の所有する物と解されうる。本件事案における本件バイクはAが盗んだものであるため、A所有の物ではないといえそうである。しかし、横領罪とは所有権を含めた財産秩序を保護しているとも考えられるため、盗品であっても「他人の物」に当たるとされる。そのため、本件バイクは「他人の物」に当たるといえる。

2.したがって、(1)の主張は正当なものということができる。

設問1(2)

1.刑法252条1項の横領罪にいう「横領」とは本人にしかできない使用、収益、処分を行う行為であると解されている。そのため、本件事案のようなバイクを隠匿する行為も使用として「横領」行為に含まれうるといえそうである。

 しかし、「横領」とは、不法領得の意思の実現行為であることから、使用は経済的用法に従ったものでなければならないとされる。本件事案における本件バイクを実家の物置に収納した行為はバイクの経済的用法に従った行為ではないため、「横領した」ということはできない。

2.したがって、(2)の主張は正当なものということはできない。

設問2

第一.Aにナイフを突き刺した行為

1.乙はAの腕にナイフを突き刺しているが。このような乙の行為が刑法43条本文により刑法203条、199条の殺人未遂罪に当たるか検討する。

 刑法199条の「人を殺」す行為に当たるといえるためには、殺意をもって人を死亡させる行為を行ったといえなければならないとされる。本件事案において、確かに乙は刃体の長さ18センチメートルのナイフを用いてAの背後に回り不意打ち的に攻撃を仕掛けているため、殺意があるといえそうであるものの、乙は背後に回りながらもなおAの腕をねらっている。また、腕という部位は人の枢要部分でないため、攻撃されても人を死亡させる危険を発生させるものではない。そのため、乙が本件ナイフをAに突き刺した行為は「人を殺」す行為に当たらない。そのため、刑法203条199条の殺人未遂罪は成立せず、せいぜいAに傷害を与えたとして刑法204条の傷害罪が成立するにすぎない。

2.これに対して、乙はAにナイフを突き刺したのは甲を守るために行ったのであるため、刑法36条1項の正当防衛として違法性が阻却されると主張することが考えられる。

 正当防衛が成立するためには「自己または他人の権利を防衛するため」に行ったといえなければならないところ、乙は甲という「他人」を防衛するために、防衛の意思のもと行為に出ている。また、Aを本件ナイフで攻撃すれば、甲に対する攻撃を阻止することができるため、乙の行為は防衛行為であったということができる。そのため、「他人の権利を防衛するため」に該当するということができる。

 また、「やむを得ずにした」とは相当性を有することを指し、必要最小限の行為であったといえなければならない。本件事案において、乙がナイフを用いているのは甲が粗暴な性格で他人に暴力をふるうこともあるAから攻撃されようとしていたためであり、Aは暴力をふるうことになれていたと推測される。そのため、ナイフを用いて防衛行為を行うことは必要最小限のものということができるため、相当性を有するといえる。よって、乙の行為は「やむを得ない」行為であったといえる。

 「急迫不正の侵害」とは、侵害が現在又は間近に差し迫っていることを指し、「急迫」しているかどうかは本人の予測状況、準備行為、攻撃意思などから総合的に判断するとされる。本件事案において、確かに甲はAより殴られようとしている。しかし、Aは甲に電話で「8時半にC公園に来い」と告げているため、Aから暴行を受けることを予見しており、自宅にあった包丁を準備したうえで出向かなくてもいいにもかかわらずC公園に向かっている。また、Aは甲がC公園につくなり甲に殴りかかっているものの、甲は殴られそうになってすぐさま本件包丁を取り出しAに突き出しているため、甲には積極的な加害意思があった負いうことが考えられる。このように、侵害を予見でき甲から加害行為に及べるほど準備がされていたため、侵害が現在又は間近に差し迫っていたということはできない。

 したがって、乙の行為に「急迫」した状況下のものであったことが認められず、刑法36条1項により正当防衛は成立しない。

 よって、違法性は阻却されない。

3.刑法38条1項本文にいう「罪を犯す意思」とは違法な犯罪構成要件事実の認識を指すため、正当防衛状況にないにもかかわらずあると誤信した場合、誤想防衛として故意が阻却される。

 本件事案において、先述の通り客観的には乙が行為に及んだ際正当防衛状況になかったといえる。しかし、乙は甲が準備している状況を知らず、C公園で甲がAに殴られそうになっている状況しか見ておらず、急迫した状況にあると誤信したのもやむを得なかったものといえる。そのため、乙は正当防衛状況にないにもかかわらず正当防衛状況にあると誤信したということができる。

 したがって、刑法38条1項本文により誤想防衛として故意が阻却される。

4.よって、乙に傷害罪は成立しない。

第二.Dの本件原付に乗って逃走した行為

1.乙が、Dの本件原付に乗り逃走した行為が刑法235条の窃盗罪に当たるか検討する。

 「他人の財物」に該当しなければならないところ、「他人の財物」とは、他人の占有する財物のことを指す。本件原付は道路わきに停車されていたものの、Dが飲食物の配達のため、停車させていたにすぎないため、Dが直接占有していなくても占有意思があったといえるため、本件原付はDの占有する財物に当たる。よって、「他人の財物」に当たるといえる。

 「窃取」とは相手方の意思に反して自己の占有下に財物を置くことを指すとされる。本件事案において、Dにとって、乙が本件原付に乗って逃走することに同意しているとは言えず、さらに、乙が原付を発信させるともはやDにとって取り返すことができなくなるため、乙は本件原付の走行を開始した時点で本件原付を自己の占有下においたということができる。よって、乙は「窃取」したということができる。

 さらに、毀棄罪との区別のため、不法領得の意思が必要とされる。不法領得の意思とは利用意思と権利者排除意思が認められることを指す。

 乙は本件原付に乗り逃走するために乗車し走行を開始させているため、利用意思が認められる。また、移動したら原付をその場に放置するつもりであったことから、Dに返還する意思がないといえ、権利者を排除する意思があったということができる。よって不法領得の意思も認められる。

 よって、乙の行為は刑法235条の窃盗罪に当たるといえる。

2.これに対して、乙は本件原付を発車させたのは、Aから逃れるためであるため、刑法37条1項の緊急避難に当たると主張することが考えられる。

 「現在の危難」が認められなければならないところ、乙はAから暴行を受け逃走している状況にあるため、「現在の危難」が存在しているということができる。

 「現在の危難を避けるため」のものでなければならないところ、乙はAからの暴行を逃れるために本件原付に乗っていることから避難意思に基づいた避難行為であったということが言える。そのため、「現在の危難を避けるため」のものであったといえる。

 「やむを得ずにした」とはそれ以外の避難方法がないことを指すが、Aは乙よりも足が速く、Aの追跡を振り切るためには本件原付を使うほかなかったことから、それ以外の避難方法がなかったということができる。そのため、「やむを得ずにした」ということができる。

 「避けようとした害の程度を超えなかった」とは相当程度の行為であったことを指し、必要最小限の行為であったといえなければならない。本件事案において、乙は身体に対する被害を防止するために本件原付に乗ってDに財産的被害を発生させているため、乙の行為は必要最小限のものであり「避けようとした害の程度を超えなかった」といえる。

 したがって、乙の行為は刑法37条1項の緊急避難に当たるということができる。

3.これにたいして、乙は自らの行為によってAによる加害を発生させているのであるから、自招危難として違法性が阻却されないと主張することが考えられる。

 しかし、形式的にも乙の行為は刑法37条1項の要件を満たすうえ、自招危難であることを理由として違法性阻却を認めない明文の規定はないため、自招危難として緊急避難の成立を否定することはできない。

4.したがって、乙に窃盗罪は成立しない。

第三.罪数

 したがって、乙は犯罪の罪責を負わない。