公法系訴訟実務の基礎の僕の答案を上げておきます。
修正も何も加えていないものですので、再利用は避けたほうがいいです。
何かおかしな点等ありましたら、コメントにお願いします。

- 作者: 中川丈久,石井忠雄,越智敏裕,村松秀樹,鶴岡稔彦,秋田仁志,岩本安昭,斎藤浩,淺野博宣
- 出版社/メーカー: 弘文堂
- 発売日: 2011/09/01
- メディア: 単行本
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設問A
A1
処分性が認められるためには、法律上の根拠に基づく国または公共団体から相手方に対する作用が認められ、それが、法律上の権利義務又は法律上の地位の変動をもたらすものであることが認められなければならず、さらに、行政庁の一方的な意思表示に基づいてなされる作用であることが認められなければならない。
本件事案における本件支給裁定取消処分は厚生年金保険法33条に基づいて国から受給権者に対してなされる作用であり、これによって受給権者に対し保険給付を受けることのできる地位に受給することのできない地位を一方的に付与するため、処分性が認められる。
A2
訴えを提起するためには行政事件訴訟法9条1項の原告適格が認められなければならないが、原告適格が認められるためには法律上の利益が認められれば良い。
本件事案における甲は本件支給裁定取消し処分を受けた者であるため、当然に原告適格が認められる。
また、訴えの相手方について被告適格が認められなければならないところ、行政事件訴訟法11条1項1号によれば、被告となるものは処分行政庁の所属する国または公共団体であるとされる。
本件事案において厚生年金保険法33条によれば、支給裁定処分取消を行うことのできる機関は厚生労働大臣であるとされていることから、処分行政庁は国であることが認められる。
A3
まず、民事訴訟として遺族厚生年金支給権に基づく遺族厚生年金支払い請求訴訟を提起することが考えられる。
この訴訟を提起するためには遺族厚生年金支給請求権が甲に認められなければならない。しかし、本件支給裁定処分取消処分が出ている以上甲は遺族年金支給請求権を有していない。
したがって、民事訴訟によって甲が訴えを提起することはできない。
次に支給裁定処分を行うよう年金事務所に義務付けるように求めることが考えられる。
行政事件訴訟法37条の2第1項によれば、義務付けの訴えを提起するためには、求める処分に処分性が認められ、原告適格が認められ、重大な損害の生じるおそれのあることと、他に適当な方法がないことが認められなければならない。
国の甲に対する支給裁定処分というものは厚生年金保険法33条に基づいてなされるものであり、これによって遺族厚生年金支給権が発生するため、行政の作用による権利義務の一方的変動が認められる。
そのため、処分性が認められる。
また、原告適格が認められるためには行政事件訴訟法9条1項の法律上の利益が認められなければならないが、甲は処分の相手方であるため、当然に法律上の利益が認められる。
したがって甲に原告適格は認められる。
甲に遺族厚生年金の支給が行われなかった場合、甲は年金だけで十分に暮らしていけるとの見通しから預貯金類のほとんどを子どもに贈与しているため、公正遺族年金の支給を打ち切られると直ちに生活に困る状況が発生するが、この状況というものは事実上発生する不利益に過ぎず、保険給付に対する年金の支給として生活の保護を目的としているものではない。
そのため、行政事件訴訟法37条の2第1項にいう重大な損害が生じるということはできない。
また、甲に対する不支給処分を争うためにはそもそも本件支給裁定処分取消しを争えばよいため、他に適当な方法がないと認めることもできない。
よって甲は行政事件訴訟法37条の2第1項に基づく義務付け訴訟を提起することはできない。
A4
名護年金事務所は甲に対し本件支給裁定処分取消しを行っているが、その理由として厚生年金保険法59条1項の事由に該当しないことを挙げているが、この行政庁の判断には、あてはめの誤りがあるということができる。
厚生年金保険法59条1項によれば、遺族厚生年金を受けることのできる遺族は被保険者または被保険者であった者の配偶者であり、被保険者または被保険者であった者の死亡当時その物によって生計を維持した者であると認められなければならないとされている。
本件事案における甲はHと別居中といえども婚姻関係にあったことから、Hの配偶者であったことが認められ、さらに、甲はHの仕送りによって生活しており、さらに、Hと別居に至った理由も甲の母とHの折り合いが悪かったという婚姻関係とは無関係の事情からであり、さらにHと甲で相互に行き来があったことから、甲はHによって生計を維持していたものと認められる。
したがって国のした本件支給裁定処分取消しには取り消されるべき違法がある。
A5
訴状は以下の通りになる
請求の趣旨
1.名護年金事務所が平成某年某月某日付甲に対してした本件支給裁定処分取消しを取り消す
2.訴訟費用は被告の負担とする
との判決を求める
請求の原因
一.当事者
1.原告
(1)原告甲は沖縄県名護市在住の者である
(2)甲はHと婚姻した
(3)甲とHは当時別居中にあった
(4)Hは死亡した
2.被告
厚生年金法100条の4第1項によれば、被告国は厚生労働大臣の権限に係る事務として遺族厚生年金に係る事務を行っており、厚生年金法100条の10により遺族厚生年金の支給に係る事務を日本年金機構に委任している。この日本年金機構の業務は日本年金機構法4条2項により管轄区域ごとに分掌されている。この分掌により名護年金事務所が名護市に関する遺族厚生年金に係る事務を行っている。
二.本件支給裁定処分
1.本件支給裁定の概要
甲は名護年金事務所を訪ね遺族厚生年金の支給裁定を請求したところ、支給裁定を受け、これまで半年にわたって年金の支給を受けてきた。
2.本件支給裁定取消しの概要
名護年金事務所は、平成某年某月某日甲について本件支給裁定を「厚生年金保険法59条に定める遺族厚生年金を受け取ることができる遺族と認められないため」との理由で取消し、通知書で甲に通知した。
三.本件支給裁定処分の違法
1.厚生年金保険法59条違反
厚生年金保険法59条1項によれば、「遺族厚生年金を受けることのできる遺族は、被保険者または被保険者であった者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって、被保険者または被保険者であった者の死亡の当時その物によって生計を維持したものとする。」と規定されている。
(1)甲は戸籍上Hの配偶者である。
(2) 甲はHの仕送りによって生活しており、さらに、Hと別居に至った理由も甲の母とHの折り合いが悪かったという婚姻関係とは無関係の事情からであり、さらにHと甲で相互に行き来があったことから、甲はHによって生計を維持していたものと認められる。
四.まとめ
以上の通り行政庁による本件支給裁定取消処分にはあてはめの誤りがあるといえ、行政庁の本件支給裁定取消処分に関する判断には取り消されるべき違法があるということができる。
また、訴えの提訴先の裁判所であるが、行政事件訴訟法12条3項によれば、取消訴訟は、当該処分又は裁決に関し事案の処理に当たった下級行政機関の所在地の裁判所にも提起することができると規定されていることから、名護年金事務所の所在地の裁判所すなわち、那覇地裁にも訴えを提起することができる。
A6
本件事案において、甲の本件支給裁定取消処分の執行停止を行うため、本件支給裁定取消処分の効力停止を求めることとなる。
行政事件訴訟法25条2項によれば、執行停止を申し立てるためには、処分の取消しの訴えを提起していることと、重大な損害が発生する場合であると認められなければならない。
本件事案において、甲は本件支給裁定処分の取消訴訟を提起しているため、処分の取消しの訴えは存在するということができる。
甲が本件支給裁定取消処分の効力を受けたままである場合、甲には年金以外の収入がなく、遺族厚生年金の支給を打ち切られると直ちに生活に困る状態にある。そのため、重大な損害が発生するということができる。
甲に遺族厚生年金を支給することが公共の福祉に重大な影響を及ぼすとの事情は認められない。
甲の本案主張には理由がないとはいえない。
そのため、甲は本件支給裁定取消処分の効力停止を申し立てることができる。
A7
執行停止申立書は以下のように記載する
申立ての趣旨
1.名護年金事務所が甲に対して行った本件支給裁定取消処分の効力を本件事件の第一審判決の言い渡しまで停止する。
2.申立費用は被申立人の負担とする
申立の理由
1.本件訴訟の提起
申立人は、申立人を原告、被申立人を被告として申立の趣旨記載の本件支給裁定取消処分の取消しを求めて併合提起した。
2.本件処分の違法性
別添本案訴訟の訴状記載の通り、本件処分は違法である。
3.本件支給裁定処分により重大な損害が生じること
本件支給裁定取消処分の効力が生じ、遺族年金の支給が認められなくなった場合、甲は唯一の収入である年金の支給を受けることができずに、直ちに生活に困る状態となるため、甲には重大な損害が生じるということができる。
4.効力停止が公共の福祉に重大な影響を与えないこと
本件支給裁定処分取消しの効力停止を行ったところで、公共の福祉に重大な損害を与えることは認められない。
5.結論
よって、本件支給裁定取消処分は違法であって取り消されるべきものであり、その効力によって申立人に重大な損害が生じる一方、その効力を停止しても公共の福祉への悪影響はないことから、申立の趣旨記載の裁判を求める。
A8
1.訴訟要件
行政事件訴訟法37条の4に基づいて国を被告として支給裁定取消処分の差し止めを求める。
行政事件訴訟法37条の4第1項によれば、差し止め訴訟を提起するためには差止の対象に処分性が認められ、原告の原告適格が認められ、一定の処分又は採決がされることにより重大な損害を生じる恐れがあり、他の訴訟によっては解決できないことが認められなければならない。
本件事案における本件支給裁定取消処分は厚生年金保険法33条に基づくものであり、これによって甲の遺族厚生年金を受けることのできる地位が一方的に変動するため、処分性が認められる。
また、行政事件訴訟法9条1項によれば、原告適格が認められるためには取り消すことについて法律上の利益がなければならないが、甲は本件支給裁定処分取消しの相手方であるため法律上の利益は認められる。
甲に本件支給裁定処分取消が認められた場合、甲は唯一の収入がなくなり、直ちに生活が困窮するため、重大な損害の発生のおそれが認められる。
また、差止め訴訟を提起する以外に甲の本件支給裁定処分取消しの効力を争う方法はないため、他に適当な方法がない場合に当たるということができる。
よって甲は行政事件訴訟法37条の4第1項に基づいて差し止めの訴えを提起することができる。
2.本案主張
行政事件訴訟法37条の4第5項によれば、差止めの訴えが認容されるためには処分すべきでないことについて裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められなければならない。
名護年金事務所は甲に遺族厚生年金を支給すべきでない理由として厚生年金保険法59条1項の事由に該当しないことを挙げている。しかし、この行政庁の判断には、あてはめの誤りがあるということができる。
厚生年金保険法59条1項によれば、遺族厚生年金を受けることのできる遺族は被保険者または被保険者であった者の配偶者であり、被保険者または被保険者であった者の死亡当時その者によって生計を維持した者であると認められなければならないとされている。
本件事案における甲はHと別居中といえども婚姻関係にあったことから、Hの配偶者であったことが認められ、さらに、甲はHの仕送りによって生活しており、さらに、Hと別居に至った理由も甲の母とHの折り合いが悪かったという婚姻関係とは無関係の事情からであり、さらにHと甲で相互に行き来があったことから、甲はHによって生計を維持していたものと認められる。
したがって国のした本件支給裁定処分取消しには取り消されるべき明らかな違法がある。
A9
乙を当事者として乙の遺族厚生年金受給権の不存在確認訴訟を提起することが考えられる。
行政事件訴訟法4条後段に基づき確認訴訟を提起するためにはこの訴訟を提起することについて訴えの利益が認められなければならない。
本件事案において乙の遺族厚生年金受給権の不存在が認められたとしても、甲の本件支給裁定処分取消の効力が否定されるものではない。そのため、甲がこのような確認訴訟を提起する必要性はない。
また、このような訴えを提起したとしても、甲の遺族厚生年金受給権は確定するわけではないため、このような訴えは適切であるということはできない。
よって甲は乙に対して乙の遺族厚生年金受給権不存在確認訴訟を提起することはできない。
A10
このような訴えの併合提起については、主観的追加的併合になるために甲の乙に対する訴えは却下されると考えられる。
そのため、実務上も追加的併合は不適切なものではないかと考えられる。
設問B
B1
国が甲に対して年金の返還を求める方法は厚生年金保険法40条の2に基づく徴収か、民法703条に基づく不当利得返還請求かである。
まず、厚生年金保険法40条の2に基づく方法から検討すると、厚生年金保険法40条の2に基づいて徴収を行うためには、偽りその他不正の手段により保険給付を受けたことが認められなければならない。また、この徴収手続は厚生年金保険法89条に基づき、国税徴収の方法で徴収される。
この際強制執行手段として取られる方法は、国税徴収法の手段であることから、滞納処分という行政処分によって甲の年金を徴収することになると考えられる。
もう一つの手段として不当利得返還請求訴訟を裁判所に提起することになるが、不当利得返還請求が認められるためには、法律上の原因なく他人の財産または労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼしたということが認められなければならない。
この場合、甲の年金を徴収するためには不当利得返還請求訴訟に勝訴し、裁判所の執行分の付与を得て、民事執行手続により年金を損害賠償として支払わせることができる。
B2
甲は不当利得返還請求訴訟において、法律上の原因のなかったことを否認すると考えられる。
そのため、甲は、不当利得返還請求訴訟において、甲の受けた年金は厚生年金法上の支給裁定に基づくものであること、名護年金事務所のした本件支給裁定処分取消しが違法であることを主張すると考えられる。
B3
国が甲に対して民法703条に基づく不当利得返還請求を行った場合、甲は本件支給裁定取消処分の取消訴訟の反訴を提起して、行政事件訴訟法25条2項に基づく本件支給裁定取消しの処分取消しの効力停止を求めることが考えられる。
設問C
C1
行政事件訴訟法37条の5第1項に基づいて博多年金事務所の乙に対する遺族厚生年金の支給裁定を仮に義務付けることを求めることが考えられる。
この仮の義務付けを求めるためには、行政事件訴訟法37条の2に基づいて義務付け訴訟が提起されていなければならない。
行政事件訴訟法37条の2第1項によれば、義務付け訴訟を提起するためには、処分性が認められ、原告に原告適格が認められ、処分がされないことによって重大な損害を生ずるおそれがあり、他に適切な方法がないと認められる場合でなければならない。
本件事案における支給裁定処分は厚生年金保険法33条に基づいて支給裁定を請求した者に対して厚生年金の支給を受けることのできる地位というものを一方的に付与するものであるため、処分性が認められる。
また、乙は、被処分者であるため、行政事件訴訟法9条1項の原告適格は認められる。
さらに、乙は、厚生年金を受けることができなかった場合、乙は、年金以外に収入がなく、預貯金もほとんどないため、生活に困窮するということができる。
また、乙に遺族厚生年金を支給させるためには、取消訴訟や、民事訴訟によっては解決困難であることから、他に適当な方法がないということができる。
そのため、乙は、国を相手に遺族厚生年金の支給裁定を求める義務付け訴訟を提起することができる。
また、行政事件訴訟法37条の5第1項によれば、仮の義務付けを求めるためには、本案に理由があると認められなければならない。
博多年金事務所は、乙は遺族厚生年金保険法59条にいう配偶者に当たらないため、乙の支給裁定請求に対して本件不支給裁定を行っているが、博多年金事務所の法令解釈には誤りがある。
遺族厚生年金保険法59条1項は、夫、妻と配偶者とを区別していることから、遺族厚生年金保険法59条1項にいう配偶者には、法律婚以外の配偶者すなわち、内縁による配偶者も含まれると解される。本件事案における乙は亡Hの内縁の妻であり、Hによって生計を維持していた者であるため、乙は、厚生年金保険法59条に基づき遺族厚生年金の支給を受けることができる。
C2
乙がIと婚姻する予定である場合、厚生年金保険法63条1項2号の事由に該当することになり、遺族厚生年金の支給を受ける地位を失う。
取消訴訟の訴えの利益がなくなるといえるためには付随的法効果も消滅したといえなければならないが、厚生年金保険法上この付随的効果は存在していない。
したがって、乙がIと婚姻した場合、訴えの利益が失われ、乙の訴えは却下される。
設問D
D1
取消訴訟の審判の対象は行政処分の違法一般であるため、裁判上行政処分の内容が異なる理由を新たに提出することはできない。
厚生年金保険法59条1項によれば、遺族厚生年金を受けるためには被保険者の配偶者であることと、被保険者によって生計を維持していたものと認められなければならないとされている。厚生年金保険法59条1項の配偶者に当たらないこと、生計を維持していた者と認められないことのいずれの要件も厚生年金保険法59条1項の違法事由であるため、被告は裁判において、生計を維持していた者とは認められないとの理由を新たに追加することができる。
したがって、裁判所は、被告の新たな主張を審理しなければならない。
D2
行政事件訴訟法33条によれば、処分を取り消す判決には拘束力が認められるものの、その理由中の判断にのみ拘束力は認められると考えられている。
本件事案における乙はHによって生計を維持していた者には当たらないとの理由は判決理由中の判断になっていないことから、行政事件訴訟法33条によって行政庁を拘束しない。したがって行政庁は乙はHによって生計を維持していた者に当たらないとの理由で再度の不支給決定を行うことができる。