平成31年司法試験予備試験刑事訴訟法

平成31年司法試験予備試験刑事訴訟法を解いていきます。

 

入門刑事手続法 第8版

入門刑事手続法 第8版

  • 作者:三井 誠,酒巻 匡
  • 発売日: 2020/04/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 1.現行犯逮捕の適法性

 刑事訴訟法205条に基づいて勾留を行うためには適法な逮捕がなければならないため、甲に対する逮捕の適法性について検討する。

(1)甲をパトカーに乗せた行為が逮捕に当たるか検討する。

 刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分とは相手方の意に反して憲法上保障される重大な権利を侵害する行為を指す。

 本件事案において、Pらは両手でパトカーの屋根をつかみ乗せられまいとする甲を無理やりパトカーに乗せ、警察官を両隣に配置していることから、甲の意に反して憲法上保障される移動の自由を奪ったということができる。そのため、Pらが甲をパトカーに乗せた行為は刑事訴訟法197条1項但書の強制の処分に当たるということができる。

 逮捕とは証拠隠滅の防止のために被疑者の身柄を拘束し、移動の自由を奪う処分であるとされる。本件事案におけるパトカーに甲を乗せた行為も移動の自由を奪う処分であることから、逮捕であると性質決定される。

(2)そのため、甲に対する逮捕が適法であるといえるためには、無令状であることから、刑事訴訟法213条の現行犯逮捕に当たるということが認められなければならない。

 刑事訴訟法212条1項によれば、現行犯として認められるためには現に罪を行いまたは行い終わった者であるといえなければならないとされる。そのため、時間的場所的接触性と明白性が必要とされなければならない。

 本件事案において甲が逮捕されたのは令和元年6月5日午後2時に本件事件が起こってから約12時間後の6月6日午前2時ころであることから、時間的近接性が認められない。また、場所も被害にあったV方より8キロメートル離れていることから、場所的近接性も認められない。

 したがって、刑事訴訟法212条1項の現行犯に当たるということはできない。

 さらに、刑事訴訟法212条2項各号のいずれかの事由があれば、準現行犯として現行犯人として扱われるものの、この規定は犯人の明白性に代えて各号の事由が認められる者に対して現行犯人として扱うことを規定したものであることから、時間的場所的近接性が必要とされる。しかし、先述の通り、甲が逮捕されたことについて時間的場所的近接性は認められないので、刑事訴訟法212条2項によっても甲に対する現行犯逮捕は適法であるといえない。

(3)したがって、甲に対する逮捕は甲をパトカーに乗せた令和元年6月6日午前3時5分に行われたということができ、刑事訴訟法212条に基づかない違法な現行犯逮捕であるということができる。

2.勾留の適法性

(1)刑事訴訟法205条の勾留は適法な逮捕を前提としているものの、この違法性が勾留を認めないほど重大内違法性を帯びているといえなければならない。

 刑事訴訟法203条によれば、司法警察職員が被疑者を逮捕してから48時間以内に被疑者を送致し、刑事訴訟法205条に基づきそれから24時間以内に勾留手続きを行わなければならないとされる。

 本件事案において6日午前9時に甲が逮捕されたことになっているものの、甲が逮捕されたのは6日午前3時である。それから約40時間後の7日午後1時に勾留請求がされていることから、刑事訴訟法205条の逮捕後の手続きに関する厳格な定めに違反しているとは言えない。また、違法な現行犯逮捕の後とはいえ、通常逮捕を行っていることから、少なくとも、緊急逮捕の要件は満たしていたと考えられる。

 そうすると、甲に対する逮捕には勾留を否定すべきほどの重大な違法があるとは認められない。

(2)したがって、甲に対する勾留は適法なものということができる。