司法試験平成29年知的財産法第一問
平成29年の司法試験の選択科目の知的財産法第一問を解いたので、ブログに挙げておきます。
書き方、解答筋はこれでいいのかと自信がないので何か気になる点がありましたら、コメントにお願いします。
第一問
設問1
1.特許権者であるX1は特許法100条に基づきY2の製品の製造、販売の差し止めを主張しようとしているが、可能であるか検討する。
(1)特許法100条1項に基づき差止請求権を行使するためには、特許法68条に規定されるように、①クレームの範囲に記載されている特許権について、②業として、③特許法2条3項に規定される実施を行ったといえなければならない。
(2)本件事案におけるX1の特許権の範囲はくれーむにきさいのある通り、「薬剤αと、薬剤γ1、γ2、γ3及び、γ4から選ばれる薬剤βとを組み合わせてなる薬」である。一方Y社製品2はα都γ2を組み合わせた薬剤を生成しているが、このYの製品2というものは、αとβの一種であるγ2を組み合わせているため、Yの発明はX1のクレームの範囲に記載された特許権と同一のものであるということができる。
(3)また、YはY製品2の生産、販売を行っていることから、業として行っているともいえる。
(4)X1の本件特許権というものは、物の発明であることから、特許法2条3項1号によって物の生産、譲渡が発明の実施方法となる。本件事案において、YはY製品2の製造、販売を行っていることから、特許法2条3項1号にいう物の生産、譲渡を行っているということがいえる。
よって、X1はYに対して差し止め請求を主張できることになる。
2.これに対してYはX1はX2に専用実施権の設定を行ったため、X1は差止請求権を行使することができないと主張すると考えられる。
しかし、特許権者が何者かに専用実施権を設定しても、専用実施権者が権利を行使しないことも想定され、それによって特許権者が損失を被ることがあり得るため、専用実施権の設定を行った特許権者も差止め請求を行うことができる。
3.またYはX1が特許権を有する発明につき、X1が特許権を得る平成27年1月より実施していたため、特許法69条2項3号によって特許権の効力が及ばないと主張することが考えられる。
本件事案において、Yは平成27年3月よりY製品1を見出し生産し続けているものの、差し止めの対象となっているY製品2は平成28年8月というX1が特許権を取得した後の製品であることから、Yは特許法69条2項2号の中用権の主張をすることができない。
4.よってX1はYに対して、特許法100条1項に基づきY製品2の製造、販売を差し止めることができる。
設問2
1.X2はZに対して、特許法101条2号の間接侵害に該当することを主張して、Z製品の製造販売の差し止めを主張しようとしているが、可能であるか検討する。
(1)特許法101条2号に基づいて差し止め請求を行うためには、①クレームの範囲に記載された物について、②特許法68条で規定される業とした実施が行われ、③それについて、特許法101条2号に規定されるその物の生産に用いる物であってその発明の課題の解決に不可欠なものであるといえなければならない。さらに、間接の間接侵害である場合、間接侵害者それぞれに特許法101条の自由が認められなければならない。
(2)本件事案におけるZの製品はβと同時に服用されていることから、患者の服用時点で本件特許の範囲に含まれる物を発生させているといえる。
(3)特許法68条の業としての実施があったといえるためには、反復継続して特許法2条3項1号の生産が行われているといえなければならない。この「生産」とは併用されることによって発生するのでは足りず、組み合わされ、製品として成立していなければならないとされる。
本件事案において、X2の販売したαとAの販売したβを患者たちは反復継続して併用しているものの、患者たちはこれらのαとβを組み合わせて、本件特許発明の対象となるものを成立させておらず、併用するのみである。そのため、患者らは、特許法2条3項1号にいう生産を行ったということができない。
2.したがって、X2はZに対し、Z製品の製造販売を差し止めることができない。
設問3
1.X3は民法423条の債権者代位権の行使として、X3の独占的通常実施権を保全債権として、X2のCに対する差し止め請求権を行使しようとしているが、可能であるか検討する。
2.民法423条の債権者代位権を行使して、特許法100条1項の差止請求権を行使するためには、①債権が存在し、②対象となる物がクレームの範囲に含まれ、③特許法68条の業としての実施が行われたといえなければならない。
(1)X3はX2に対して独占的通常実施権を有していることから、X2に対して、特許権の不行使請求権と再実施許諾の不作為を求める請求権を有しているといえる。
(2)また、C製品は本件特許発明の実施品であることから、C製品は本件特許権のクレームの範囲に含まれているということができる。
(3)特許法68条によれば、業として、特許法2条3項の実施をしたといえなければならないが、Cは反復継続して、すなわち業としてC製品の生産を行っていることから、Cは業とした実施を行っているといえる。
(4)そのため、X3は民法423条によるX2の差止請求権の代位行使として、Cに対する差し止め請求を主張することができる。
2.これに対して、Cは抗弁として、専用実施権者から、通常実施権を得ていることから、特許法78条1項に基づき、X3は差し止め請求権を行使することはできないと主張することが考えられる。
X3が代位行使をするX2の差止請求権は特許法78条1項によりCに対しては主張することができないため、X3はCに対して差し止め請求を行うことができない。
3.次にX3はCに対して民法709条に基づく損害賠償請求を行おうとしているが、可能であるか検討する。
(1)独占的通常実施権者は独占的条件に違反して発明の実施を行うものに対する損害賠償請求を行うことができる。
(2)特許権侵害の場合の損害額の推定について、特許法102条2項によれば、侵害の行為により利益を受けている場合にその利益の額と推定することができるとされる。
本件事案において、Cは本件特許発明品の市場をB製品とC製品とで二分させていることにより利益を得ているため、Cは侵害の行為により利益を得ているということができる。
4.これに対してCはX3の実施能力を理由として、Cの得た利益を損害とすることの抗弁として主張することができる。このようにCが主張することにより、Cは損害賠償額の減額を主張できる。
5.したがって、X3は差し止め請求権をCに対して行使し得ないものの、民法709条に基づいて、Cが減額を主張した限度での損害賠償請求を行うことができる。