平成24年司法試験刑法

平成24年司法試験刑法を解いていきます

 

 

 第一甲の罪責

1.有印私文書偽造

 甲は社員総会を開催していないにもかかわらず、利益相反取引を承認することを内容とする社員総会議事録を作成しているが、この行為が、刑法159条1項の有印私文書偽造罪に当たるか検討する。

(1)刑法159条1項の有印私文書偽造罪が成立するためには、①行使の目的があることと、②他人の印章又は署名を用いることと、③権利義務若しくは事実証明にかかわる文書であること、④偽造を行ったということが認められなければならない。

 本件事案において甲が社員総会議事録を作成したのは、A社の本件土地が適法に売買されたとの外形を作るためであるため、講師の目的があるといえる。

 また、社員総会議事録を作成するにあたり、確かに甲は、自己の代表社員印を用いているものの、この代表社員は、社員総会を行った代表社員でなければならないにもかかわらず、社員総会を行っていない代表社員が印を用いていることから他人の印章を用いたということができる。

 社員総会議事録は社員総会が適法に行われ社員総会において重要な決定を行ったことを証明する文書であるから、事実証明に関する文書であるということができる。

 偽造とは、文書の作成者と作成名義人の人格の同一性を偽る行為を指すとされている。本件事案において代表社員印を用いたのは適法に社員総会を行っていない代表社員甲であるが、作成名義人は適法に社員総会を行った代表社員甲となっているため、文書の作成者と作成名義人の人格の同一性を偽ったということができる。

(2)したがって、刑法159条1項の有印私文書偽造罪が成立する。

2.業務上横領罪の成否

 甲は、自己が代表社員であるA社の本件土地にA社に無断で抵当権を設定しているが、この甲の行為が刑法253条の業務上横領罪に当たるか検討する。

(1)刑法253条の業務上横領罪に当たるというためには、①業務に関して行われたことと、②自己の占有する他人の物に関して行ったことと、③横領を行ったといえることが認められなければならない。

 業務上であるというためには、その者が社会生活上反復継続して行う経済活動であると認められなければならない。本件事案において、甲は、A社の所有する不動産の処分管理権を有しており、それに基づき経済活動を行っていたと考えられることから、甲はA社の所有する不動産の管理処分を社会生活上反復継続した経済活動として行っていたということができる。

 また、本件土地の所有権はA社にあるため、甲の所有物ではないものの、甲はA社代表社員の地位に基づき法律上本件土地を占有している。そのため、本件土地は自己の占有する他人のものであるということができる。

 横領行為とは不法領得の意思の実現行為であるため、所有権者にしかできないような使用収益処分を行うことを指す。本件事案において、甲は本件土地に抵当権を設定しているが、この抵当権設定行為は本人であるA社にしかできないものであるため、甲はAにしかできないような抵当権設定という処分を行ったということができる。

(2)したがって、甲には刑法253条の業務上横領罪が成立する。

3.乙との共同正犯による業務上横領罪

 甲は乙と共謀し、本件土地をEに売却しているが、この行為が、乙との刑法60条の共同正犯による刑法253条の業務上横領罪に当たるか検討する。

(1)刑法60条によれば、共同正犯が成立するためには、共同して犯罪を実行したといえなければならないとされている。ただし、この共同実行は共謀によっても行うことができるとされており、その場合複数人が謀議を行い、その謀議に従って各人の犯罪を実行したということがいえなければならない。

 本件事案において、甲は、乙に借金を抱えるようになった事情を説明し、それに対して乙が、Eへの本件土地の売却を持ち掛け、甲がそれに応じてEへの売却を行ったということが認められる。そのため、甲と乙は謀議を行い、各人の犯罪を実行したということができる。

 そのため、甲と乙は、刑法60条により共同正犯の罪責を負う。

(2)刑法253条によれば、業務上横領罪が成立するためには、①横領が業務上行われたことと、②自己の占有する他人の物に対して行われたことと、③横領行為を行ったことが認められなければならない。

 業務上の行為であるといえるためには社会生活上反復継続して行われる経済活動を指す。本件事案において、甲は、A社代表社員としてA社不動産の管理処分権を有しており、本件土地を売却する行為は業務上のものであるということができる。

 本件土地はA社の所有するものであり、甲が法律上占有していたことから、本件土地は自己の占有する他人のものであるということができる。

 横領行為とは不法領得の意思の実現行為を指し、本人にしかできないような使用収益処分を行うことを指す。本件事案における売却行為はA社にしか行えないような処分行為であるため、これを無断で行った甲の本件土地の売却は横領行為に当たるということができる。

 なお、横領後の横領については包括一罪となるとの見解があるが、不動産に抵当権を付し、売却した場合、前者の行為によって抵当権設定部分について損害が生じ、売却行為によって土地の全体部分について財産的損害が生じることから、二重評価とはならず、横領罪が二つ成立する。

(3)したがって、甲には乙との共同正犯による業務上横領罪が成立する。

4.Dに対する乙との共同正犯による背任罪

 甲は本件土地を売却しないことを条件として本件土地の抵当権を抹消させたにもかかわらず、本件土地を乙との共謀のうえ売却しているが、この甲の行為が刑法60条の共同正犯による刑法247条の背任罪に当たるか検討する。

(1)刑法60条によれば、共同正犯が成立するためには、共同で犯罪を実行したといえなければならない。共謀によっても共同正犯を実行することができるとされており、その場合には複数人で謀議をなし、その謀議に従って犯罪が実行されたといえなければならない。本件事案において、甲と乙との間で本件土地の売却計画がまとめ上げられることによって謀議がなされ、それに基づき本件土地が売却されたのであるから、謀議とその謀議に基づく実行があるということができる。

 したがって、共同正犯が成立する。

(2)刑法247条の背任罪が成立するためには、他人のための事務処理者に当たるということができ、図利加害目的があるということができ、任務違背行為を行ったということが認められなければならない。

 本件事案において、甲は、Dとの間で本件土地を売却しないことを条件とする抵当権抹消登記を行っているため、甲は本件土地を売却しない義務を有していたということができるため、甲は他人のための事務処理者に当たるということができる。

 図利加害目的とは、本人のために事務を行うことを目的としないことを裏から規定したものであるとされる。本件事案において甲は、自己の利益を図るために、本件土地の売却を行っていることから、図利加害目的があったということができる。

 さらに、甲はDとの間で本件土地を売却してはならないとの契約をしていたにもかかわらず、本件土地の売却を行っていることから、任務違背行為を行ったということができる。

(3)したがって、甲には乙との共同正犯による背任罪が成立する。

5.罪数

 本件事案において甲には有印私文書偽造と業務上横領罪、乙との共同正犯による業務上横領罪と乙との共同正犯による背任罪が成立するが、このうち乙との共同正犯による業務上横領罪と乙との共同正犯による背任罪は土地の売却という一個の行為によって行われたものであるため、刑法54条1項前段により、観念的競合になる。

 したがって、この観念的競合となった科刑上一罪の罪と、業務上横領罪と私文書偽造罪は刑法45条により併合罪となる。

第2乙の罪責

1.甲との共同正犯による横領罪

 先述の通り、乙は甲との共同正犯により横領を行ったが、この横領が身分による共犯であるため、刑法65条によりどのような犯罪が成立するか問題となる。

 刑法65条1項によれば、真正身分犯については身分のないものについても共犯となるとされている。刑法242条の横領罪は犯人の身分によって構成される真正身分犯であるため財物の占有を行っていなくとも共犯になるとされる。

 本件事案において乙は、甲と共に横領を行ったが、この横領は身分によって構成される犯罪であることから、刑法65条1項によって乙も共同正犯としての罪責を負う。

 一方刑法65条2項は身分によって特に刑の軽重のある不真正身分犯については通常の刑を科すとされている。刑法253条の業務上横領罪の業務上という身分によって横領罪と比べて刑に軽重があることから刑法65条2項の不真正身分犯に当たるとされている。

 本件事案において甲は業務上横領罪の罪責を負うが、この業務上横領罪は刑法65条2項の不真正身分犯であることから業務上の身分を有しない乙は横領罪の罪責を負う。

 したがって、乙は刑法65条1項2項により、甲との共同正犯による横領罪の罪責を負う。

2.甲との共同正犯による背任罪

 先述の通り乙には甲との共同正犯による背任罪が成立する。

3.罪数

 したがって乙には甲との共同正犯による横領罪と甲との共同正犯による背任罪が成立するが、これらは自然的観察のもと、一個の行為によってなされたことから、刑法54条1項前段により観念的競合となり科刑上一罪となる。

以上