平成23年司法試験憲法

平成23年司法試験憲法を解いていきます。

 

 

 設問1

1.Xは行政事件訴訟法3条2項に基づく法8条3項に基づく中止命令の取り消しを請求することが考えられる。

2.法令意見

 憲法21条1項によれば、一切の表現の自由が保障されているが、この表現の自由が保障されているのは、表現を行うことにより国民間での情報交換が行われ、国民の民主政治に資するとされていることと、個人が表現活動を行うことにより、個人の自己実現が図られ個人の人格形成に資すると解されているためである。そのため、憲法21条1項の表現の自由は最大限に保障されているということができる。

 ただし、表現ではない単なる情報によっても情報が発信されやり取りされることにより国民の民主政治に資すると考えられ、思想や感情を表現したものでない情報発信によっても個人の自己実現は図られることから、情報発信の自由は表現の自由と同様に憲法21条1項によって保障されていると解され、憲法21条1項により最大限に保障されているということができる。

 また、法8条3項は、特定地図検索システムの提供を中止命令により一方的に禁止することを規定しているのであるから、憲法21条1項の表現の自由を禁止によって制約するものであるということができる。

 そのため、この法8条3項の中止命令を設けた規定が合憲であるというためには、このような規制をするやむにやまれぬ必要性があり、その規制手段も必要最小限度のものであるということが言えなければならない。

 法7条2号によれば、個人権利利害侵害情報が含まれないようにするよう義務付けているが、この情報というものは法2条6号によれば、公にすることにより個人の権利利益を害する情報としか書かれておらずプライバシー侵害になる物とは認められない。そのため、法8条3項によって保護されるべきやむにやまれぬ利益はないということができる。また、その手段もシステム提供の中止という重大なもので情報の修正の機会も与えられないことから、手段も必要最小限度のものであるということはできない。

 したがって、法8条3項は憲法21条1項に違反し無効であるということができる。

3.適用違憲

 法令意見が認められないとしても適用違憲が認められる可能性があるため検討する。

 憲法21条1項によれば、表現の自由と同様に情報発信の自由が保障されており、最大限保障されるということができる。

 また、法8条3項は特定地図検索システムに対して提供中止命令を発することができるとすることにより、提供の禁止を行い特定地図検索システムの提供者の情報発信の自由を制約しているということができる。

 そのため、表現の自由を保障する観点から、法8条3項の提供中止命令は限定的に解されなければならない。そのため、法8条3項に基づいて中止命令を発することができるのは是正勧告に従うことが期待されず、プライバシー侵害を行う差し迫った危険のある場合でなければならないと解される。

 本件事案におけるXはA大臣の是正勧告に従っていないものの、Xの提供する画像は公道上からでも見える家の中の様子が見えるということにすぎず、プライバシー侵害を行う差し迫った危険性はない。

 したがって、法8条3項の要件を満たさず、Xに対する中止命令は違法であるということができる。

4.したがって、法8条3項に基づくA大臣の中止命令は取り消されるべきである。

設問2

1.法令意見の主張に対して

 このようなXの主張に対し国はXの提供するZ機能画像は単なる情報であり憲法21条1項の表現の自由により保証されないことを主張することが考えられる。

 しかし、単なる情報であっても情報が発信されることにより国民間で情報交換が行われ民主的政治に資することができるうえ、情報発信によって個人の感じた体験などを表現し個人の自己実現に資することができることから情報発信の自由も憲法21条1項によって保障されているということができる。そのため、国の反論は認められない。

 法8条3項は中止命令を発することによりZ機能画像の提供を禁止することができるため、表現の自由を制約しているということができる。

 また、国は法8条3項は法7条2号によって個人権利利益侵害情報の提供禁止義務を課しているにもかかわらず、個人権利利益侵害情報を提供し続け個人のプライバシー権を侵害した場合の制裁と権利侵害の回復のための規定であるため、この規定に違反し個人のプライバシーを侵害するようなZ機能画像の提供については公共の福祉の観点から憲法21条1項によって保護されていないと主張することが考えられる。

 法2条6号によれば、個人権利利益侵害情報とは、個人識別情報及び個人自動車登録番号等以外の個人に関する情報であって、公にすることにより、個人の権利利益を害するおそれのあるものを指すと規定されている。憲法13条は個人の幸福追求権としてプライバシー権を保護しておりさらに、憲法35条1項によれば、住居の不可侵を規定することにより住居内のプライバシーを保護していると解されることから住居内についてのプライバシー権は特に憲法上保護されているということができる。このことを踏まえると、法2条6号の個人権利利益侵害情報とは少なくとも個人の住居内をのぞき見ることによって、憲法13条及び憲法35条1項によって保障された住居内プライバシーを侵害する情報のことを指すと解される。

 本件事案におけるXの提供するZ機能画像は家の中の様子など生活ぶりが確認できるものとなっていることから、憲法13条、35条1項によって保障された住居内のプライバシーを侵害するものであるということができる。そのため、Xの提供するZ機能画像については公共の福祉の観点から憲法21条1項の表現の自由として保証されない。

 したがって、法8条3項は憲法21条1項に違反しないということができる。

2.適用違憲の主張について

  Xの主張の通り情報発信の自由は憲法21条1項によって表現の自由と同様に最大限保障されているということが言える。

 また、法8条3項に基づく特定地図検索システムの提供中止命令が発せられることにより特定地図検索システムを用いた情報発信ができなくなることから、憲法21条1項によって保障される表現の自由を制約しているということができる。

 しかし、Xの提供するZ機能画像は家の中の様子などの生活ぶりのうかがえる画像についてマスキングを行っていないことから憲法13条、35条1項の住居内のプライバシーを侵害するものであるということができるため、公共の福祉の観点から表現の事由によって保障されていない。

 したがって、法8条3項は合憲限定解釈されず、Xに対する本件中止命令は違法であるということはできない。

3.したがって、Xは本件中止命令を取り消すことができない。

 以上