平成21年司法試験行政法

平成21年度司法試験の行政法を解いていきます。

 

 

 設問1

第一本件確認の取り消し

1.Fらは建築基準法6条1項の申請に対する処分の取り消しを主張することが考えられるため検討する。

(1)行政事件訴訟法3条1項の取消訴訟を提起するためには、公権力の行使に当たる作用すなわち処分性が認められなければならないとされる。

 処分性が認められるためには、その行政庁の作用について法律上の根拠があり、その作用によって相手方の権利義務又は法律上の地位に対して変更を一方的にもたらすものであるということができなければならない。本件事案における、建築基準法6条1項の申請に対する処分としての本件確認はこれによってAに建物を建築することのできる地位を一方的に与えるものであることから、法律上の地位を一方的に変更させるものであるということができる。

 したがって処分性が認められる。

(2)行政事件訴訟法原告適格が認められるためには、行政事件訴訟法9条1項の法律上の利益を有する者に該当しなければならない。

 この法律上の利益を有する者とは処分によって法律上の利益が侵害されまたは侵害される恐れのあるものを指し、法律上の利益として公益を保護するだけでなく個人の具体的利益についても保護していると認められる利益も含まれるとされる。

 建築基準法6条1項に基づき申請に対する許可をするためには、建築関係規定に適合していることが認められなければならない。そのため、建築基準法21条の防火のための規定に合致しなければならず、この防火のために建築基準法42条などにおいて敷地と道路の関係について規定されているものと考えられる。なぜなら、道路の幅の確保によって消防車の侵入できる道路を確保し、火災が発生しても消火できるようにしなければならないからである。さらに、これによって、近隣住民の生命の安全を確保していると考えられる。

 そのため、建築基準法6条1項はその要件となっている建築基準法21条及び42条によって近隣住民の身体の安全を保護していると解されることから、建築確認申請の対象となった建物の近隣住民は行政事件訴訟法9条1項の法律上の利益を有する者と認められると考えられる。

 本件事案において、Fは本件土地から10メートル離れた地点にあるマンションに居住する住民であることから、本件土地の近隣住民であると認められ、本件確認によって、生命身体の安全を害されるおそれのある者ということができる。一方、Gは本件土地から10メートル離れた地点にあるマンションの所有者であるものの、このマンションに住んでいないのであるから、近隣住民とは言えず、生命身体の安全を害されるおそれのある者ということはできない。さらに、IとHについては本件土地から500メートル離れたマンションに住んでいる者であることから、近隣住民とは言えず、生命身体の安全を害されるおそれのある者ということはできない。

 したがって、Fには原告適格が認められる。

(3)また、原告適格の主張として、建築基準法6条1項の要件として条例に合致することが認められることが要件とされていることから、B県建築安全条例27条に合致しなければならないと解される。B県建築安全条例27条4号によれば、児童福祉施設の出入り口から20メートル以内の道路については面して自動車車庫等の建築物の敷地に接してはならないとされているが、これは、防災上の観点から、児童福祉施設の利用者の身体の安全を保護するものと解される。しかし、児童福祉施設の利用者という者は不特定多数の人物であり、具体的に個人として確定することが困難であることから、公益のみを保護する者でないとしても具体的私人の利益を保護している物とは考えられない。そのため、この規定は行政事件訴訟法9条1項の法律上の利益を保護しているものということはできない。

 したがって、仮にHとIが本件図書館の本件児童室がB県建築安全条例27条4号の児童福祉施設に当たり、その利用者であることを理由として原告適格を主張しようとしても児童福祉施設の利用者の身体生命の安全は法律上の利益として認められていないことから、H,Iには行政事件訴訟法9条1項の原告適格は認められない。

(4)また、法律上の利益も建築確認がされ、建築物が建てられていない以上Fらの身体の安全に対する危険は除去されていないことから、法律上の利益は残っているということができる。

 そのため、訴えの利益もあるということができる。

2.したがって、Fは建築基準法6条1項に基づく建築確認の申請に対する本件確認の取り消しを請求することができる。

第二.裁決の取消し

1.FらはB県建築審査会の裁決の取消しを求めることが考えられるため、検討する。

 行政事件訴訟法3条3項によれば、裁決の取消しを求めることができるとされている。

 本件事案において、B県建築審査会はF,G,H,Iらに対して審査請求を棄却する裁決を下していることから、対象となる採決が存在しているということができる。

 また、行政不服審査違法2条によれば、行政庁の処分について不服のある者が請求できるとされていることから、審査請求を行った者に原告適格が認められると考えられる。

2.したがって、Fらは行政事件訴訟法3条3項に基づいて裁決の取消しを求めることができる。

第三.仮の救済

1.行政事件訴訟法25条2項によれば、重大な損害を避ける必要がある場合執行停止をすることができるとされていることから、Fらはこの執行停止として、本件確認の効力の停止を求めることが考えられるため、検討する。

 行政事件訴訟法25条2項によれば、執行停止をするためには、処分の取り消しの訴えの提起があることと、処分の執行や続行によって重大な損害を避ける必要があることが認められなければならない。

 本件事案において、本件建築物が建てられた場合Fらは身体の安全を確保することができなくなるというおそれがあり、建築物が建っている以上この損害を回復させることは困難となることから、重大な損害が発生しているということができる。

2.したがって、Fらは行政事件訴訟法25条2項に基づいて本件確認の効力の停止を求めることができる。

設問2

1.B県は本件土地について建築基準法43条1項の要件に該当すると判断しているため検討する。

 建築基準法43条1項によれば、建築物の敷地は建築基準法42条1項に規定される道路に2メートル以上接していなければならないとされている。建築基準法42条によれば、道路とは、建築基準法42条1項各号のもののうち、幅員4メートル以上特別指定区域にあっては6メートル以上のものを指すとされる。

 本件道路はL神社の参道であるため、道路法上の道路ではないものの、建築基準法42条1項5号に規定される道路に該当し、更に6メートルの幅員があることが認められる。そのため、本件土地は道路に2メートル以上接しているということができるため、B県の処分について建築基準法43条1項の違法はない。

 したがって、Fらの違法主張は認められない。

2.B県は本件土地についてB県建築安全条例27条に違反しないと主張するため検討する。

 建築基準法6条1項によれば、建築物は条例にも適合していなければならないとされる。B県建築安全条例27条によれば、自動車の入り口を同条各号に定めるものの面に接してはならないとされる。また、B県建築安全条例27条4号によれば、児童福祉施設又はこれに類するものの出入り口から20メートル以内の道路に接してはならないとされる。

 B県建築安全条例27条は多数の者の出入りする施設の利用者の安全を確保するための規定であることから考えると、本件図書館の本件児童室については、児童用の座席は10人程度分しか用意されていないものの、児童の遊び場があり、さらに、本件児童室は100平方メートルを占めていることから、多数の児童が出入りする施設であるということができるため、B県建築安全条例27条4号の児童福祉施設と同視することができる。

  本件土地は本件児童室の設置された本件図書館から20メートル以内の道路に面しているといえるため、B県の行為はB県建築安全条例に違反しているということができる。にもかかわらず本件建物に対して本件確認を行ったB県の行為は違法無効であるということができる。

3.B県は本件紛争予防条例6条に違反していないと主張するため、検討する。

 本件紛争予防条例6条は建築に係る計画の内容について近隣住民に説明しなければならないとされているため、近隣住民が理解できる程度に建築内容についての説明を行わなければならないと解される。しかし、本件事案において、Aは説明の機会を与えていない。そのため、建築に係る計画の内容について周辺住民が理解できる程度の説明を行っていないということができる。

 しかし、建築基準法6条1項は建築物の安全を確保するための規定であることから、本件紛争予防条例といえども建築基準関係規定には含まれていないということができる。したがって、説明会における説明の不備は建築基準法6条1項違反を構成しないということができる。

 したがって、Fらはこの違法事由を主張することはできない。

4.行政事件訴訟法10条1項によれば、取消訴訟においては事故の法律上の利益に関係のない違法を理由として主張することはできないとされているため、これによって、違法主張が封じられないか検討する。

(1)本件事案において、Fが取消訴訟において主張しているのは道路を含めた周辺住民の身体または生命の安全であることからすると、Fは建築基準法43条1項の違法を主張することはできるものの、B県建築安全条例上の違法を主張することはできないと解される。

 そのため、Fは取消訴訟において、B県安全条例違反の主張を行い本件確認の取り消しを求めることはできない。

(2)一方、Fらが裁決の取り消しを求もとめて訴訟を提起した場合、違法事由として主張できる内容は裁決の違法であるため、不服申し立ての際に行った違法事由を裁判で主張することができることになる。

 そのため、Fらが裁判でB県建築安全条例違反の事由を主張しているといえるならば、その事由については行政事件訴訟法10条1項による取消理由の制限に抵触しない。

 この場合、FらはB県建築安全条例違反を主張することによって裁決の違法を主張することができる。

6.よって、Fらは裁決の取消しを求める訴訟において、B県建築安全条例27条違反を主張することによって、違法事由の主張が認められるということができる。