ロープラクティス民事訴訟法 基本問題32

ロープラクティス民事訴訟法の基本問題32を解いていきます。

この問題は、既判力の作用が及ばない事件について信義則を用いて既判力類似の効果を及ぼすことができるかということに関する問題です。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第3版〕

Law Practice 民事訴訟法〔第3版〕

  • 作者:山本 和彦
  • 発売日: 2018/01/11
  • メディア: 単行本
 

 

 1.民事訴訟法114条1項によれば、既判力は確定判決の主文に発生するとされる。

 本件事案における前訴はXのYに対する買い戻し契約が成立したことを理由とする所有権移転登記手続請求訴訟であり、このXの訴えは棄却されている。そのため、XのYに対する所有権移転登記手続き請求は認められないという部分について民事訴訟法114条1項の既判力が生じているということができる。

 次に、既判力が作用する対象の訴訟物は前訴と同一、先決、矛盾関係にある訴訟物であるとされる。後訴における訴訟物は、買収処分が無効であることを理由とする土地の明け渡し請求であることから、訴訟物は同一でないということができる。

 そのため、本件事案における前訴の既判力は後訴に作用しないため、Xの後訴は既判力の作用により棄却されない。

2.既判力が作用しなくとも、前訴の蒸し返しに当たると考えられる場合で、後訴の理由を前訴で主張することが困難でなかったといえ、長期間の時間の経過により当事者間の紛争が解決しているという合理的期待がある場合、後訴は信義則により却下される。

 本件事案における後訴は前訴と同様に農地改革の際の土地に対する処分の適法性を争うものであるから、後訴は前訴の蒸し返しに当たるということができる。また、買収処分の無効は前訴で争点になった農地改革による買収処分とも関係するのであるから、この事由は前訴でも主張できたということができる。さらに、前訴から後訴まで20年が経過しており、もはやXY間の紛争は解決しているという当事者間の期待がある。にもかかわらず、Xは後訴を提起しているのであるから、Xは信義則に違反して訴えを提起したということができる。

 よって、Xの後訴は信義則により却下される。

 以上