ロープラクティス民法Ⅰ第1問
この問題は未成年者の制限行為能力に関する問題です。
小問(1)
1.BはGに対して乙の売買契約の取り消しと200万円の支払い請求を主張するため検討する。
本件事案において、未成年者AはGとの間で乙の売買契約を締約している。
民法5条1項によれば、未成年者が法律行為をする場合には法定代理人の同意絵を得ていないければならないとされる。もし、同意を得なかった場合には民法5条2項により取り消すことができるとされる。本件事案において、AはGとの間の乙の売買契約について法定代理人であるBの同意を得ていない。そのため、法定代理人のBはAG間の売買契約を取り消すことができる。
民法121条の2第1項によれば、無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は原状回復義務を負うとされる。そのため、本件事案において、AG間の売買契約が取り消された場合、Gは代金200万円をAに返還しなければならなくなる。
したがって、BはGに対してAG間の売買契約の取消と200万円の支払いを請求することができる。
2.これに対して、GはAが民法21条の詐術を用いたと主張しBの請求を拒むことが考えられる。
民法21条の詐術とは、自らの行為能力を偽る目的で行為能力が存在するかのようにふるまうことである。この詐術は作為によらなくても、その様な行動をとれば詐術と認められるとされる。
本件事案において、Aは自身が未成年者であると述べていないため、GがAには行為能力があると認識したとも考えられる。しかし、GはAが未成年者であるかどうか訪ねておらず、Aも聞かれなかったから答えなかったに過ぎないため、行為能力について誤信させるような行動を行っていない。
そのため、Aは民法21条の詐術を行ったということはできない。
3.したがって、BはGに対して、AG間の売買契約の取消と200万円の返還を請求することができる。
小問(2)
1.BはEに対してAE間の甲の売買契約の取消と甲の返還を主張しているため検討する。
本件事案において、未成年者AはEとの間で甲土地の売買契約を締約している。
民法5条1項によれば、未成年者が法律行為を行うためには法定代理人の同意を得なければならないとされる。もし、同意がないならば、民法5条2項により取り消すことができる。本件事案におけるAは未成年者であり、法定代理人Bの同意を得ずに甲の売買契約を締約している。そのため、Bは民法5条2項によりAE間の売買契約を取り消すことができる。
また、民法121条の2第1項によれば、無効な行為によって給付を受けた者は原状回復義務を負うとされる。そのため、BはEに対して甲土地の返還を請求することができる。
したがって、BはEに対してAE間の甲土地売買契約の取消と甲土地の返還請求を行うことができる。
2.これに対して、EはAが詐術を用いたと主張することが考えられる。
民法21条の詐術を行ったといえるためには、制限行為能力者が制限行為能力者でないことを偽る意思で行為能力の有無を偽ったといえなければならない。
本件事案において、AはEとの売買契約を締約する際に法定代理人の同意を得て来たという誓約書にサインしている。これは、制限行為能力者であっても取消の対象とならないことを偽るためのものであるから、行為能力者であることを信じさせるための行為に当たるということができそうである。しかし、未成年者であれば、誓約書などを確認し、その内容を理解したうえで記載することは考えられないから、AがBの同意を得たという内容の誓約書にサインをしたとしてもそれは作為による詐術には当たらないといえる。
また、仮に、このAの行為が詐術に当たるとしても、民法21条は取引の安全を確保するために、制限行為能力者が詐術を用いた場合に取消を否定しているのであるから、未成年者と取引を行った相手方が未成年者であると認識している場合取引の安全のため、その相手方を保護する必要がない。本件事案において、EはAが未成年者であると認識しているため、Aが詐術を用いたとしても、Aの取消権を否定する必要性が認められない。そのため、仮に、Aの行為が詐術に当たるとしても、民法21条によりAE間の売買契約の取消が否定されることはない。
3.次にEはAE間の売買契約が取り消されることから、民法121条の2第1項に基づいて1000万円の返還を請求することが考えられる。
しかし、民法121条の2第3項によれば、相手方が制限行為能力者の場合、現存利益の範囲でしか返還請求を行うことができないとされる。
本件事案において、Aは1000万円のうち300万円を遊興費として費消しているため、この300万円について現存利益が認められない。また、バイクの購入費用に充てた200万円はバイクが全損していることから現存利益が認められない。Aの借金の返済に充てた100万円についてはこれによって100万円の請求を免れていることから現存利益が認められる。
そのため、AはEに対して500万円の返還義務を負う。