ロープラクティス商法 問題18

新株の不公正発行に関する問題です。

問題はロープラ商法の第3版を使っていますので、問題番号や問題の内容が違うかもしれません。

Law Practice 商法〔第4版〕

Law Practice 商法〔第4版〕

  • 作者:黒沼 悦郎
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 単行本
 

 

 設問(1)

 1.会社法210条2号によれば、新株の発行が著しく不公正な方法による場合、新株発行の差し止めを請求することができるとされている。この著しく不公正な方法とは、株式の発行は資金獲得を目的としており、経営支配権の獲得のために用いられるものではないことから、もっぱら経営支配権の維持獲得を目的として新株の発行を行うことを指す。

 本件事案において、XとYとの間で、経営支配権をめぐって対立が生じており、本件新株発行が実行されると、Xの株式保有割合が、41.7%から約22パーセントまで希釈化され、単独で3分の1をとることができなくなる。

 Yが新株を発行した目的は800億円を本件事業計画に充てるためのものであることから、事業計画の内容に対して新株発行の対価が妥当である場合、新株発行の目的は経営支配権の維持獲得ではなく、資金調達であると推認されるため、Yの新株発行は経営支配権の維持獲得を主要な目的としていないといえる。

 もし、本件事業計画の具体的内容に対して、調達する資金の額が大きい場合、資金調達に仮託した経営支配権の維持獲得であると推認されるため、この場合にはYの新株発行は経営支配権の維持獲得を主要な目的としていたといえる。

2.したがって、本件事業計画の内容に対して調達する資金の額が大きい場合会社法210条2号の著しく不公正な方法による場合に当たり差し止めを請求できるものの、調達する資金の額が妥当な場合、会社法210条2号の著しく不公正な方法による場合に当たらないため差し止めを請求できない。

3.このように、本件事業計画の具体的内容は新株発行の目的を推認するために検討されるべきであるといえる。

設問(2)

1.会社法247条2号によれば、新株予約権会社法238条1項の募集により発行される新株予約権の発行が著しく不公正な方法による場合募集新株予約権の発行の差し止めを請求することができると規定されている。

 会社法247条2号の著しく不公正な方法による場合とは、もっぱら経営支配権の維持獲得を目的とした新株予約権の発行が行われることを指す。

 本件事案において、YはXとの対立状況において、新株予約権の行使がされれば、Xの株式の割合が約22パーセントにまで減少するような新株の発行を行っている。また、本件事業計画に対し調達する資金額が合理的か否かによって新株予約権の第三者割り当てを行う目的が推認されるため、この事業計画に従って著しく不公正な方法で発行されたかが判断される。

2.したがって、会社法247条2号により、Yの新株予約権の発行を差し止めることは事業計画に対して調達される資金の額次第で認められることがある。

設問(3)

 この場合、獲得される資金の額が著しく過大になるため、資金調達の目的が本件事業計画のためではなく、会社の経営支配権の維持獲得のためであると推認されやすくなる。