令和4年司法試験再現答案商法

令和4年司法試験商法の再現答案を置いておきます。

設問2の利益相反について気付いていればなあと思い直しています。

この答案はB評価でした。

設問1

1.会社法339条2項によれば、会社法339条1項の事由すなわち、「株主総会の決議によって解任」された場合に、損害賠償を請求することができるとされる。

 本件事案において、Dは平成30年に甲社取締役に就任し、令和2年の期間満了によって退任となっているため、本件事案において、Dは「株主総会の決議によって解任」されたとは言えない。そのため、会社法339条2項に基づいてDは甲社に対して損害賠償請求をすることができない。

2.しかし、会社法339条2項の損害賠償請求は取締役の得るべき報酬の確保にあるため、任期以上の期間取締役として就任すべき慣習があり、選任されるとの裏切られたといえる場合には会社法339条2項類推適用により報酬を損害として請求することができる。

 本件事案における甲社において、乙社出身の取締役に関しては選任から4年で退任するのが慣例となっており、AもDに対して乙社出身の取締役に関しては4年で退任となっていることを説明し、Dはそのことを期待して就任しているため、4年間甲社の取締役として選任されるとの期待がDにあったということができる。にもかかわらず、2020年の取締役会においてDを取締役として選任していないため、Dの期待を裏切ったということができる。したがって、会社法339条2項に基づいてDは甲社に対して損害賠償請求をすることができる。

 これに対して、Aは会社法339条2項の「正当な理由」があるため、損害賠償請求をすることはできないと主張することが考えられる。この「正当な理由」とは、身体の故障など取締役の職務を継続することが困難な事由を指し、経営能力の欠如も含まれうると解されている。

 本件事案において、DはAとの間で東北地方への新規店舗の設置について意見が対立しているにすぎず、Dに取締役の職務を継続させることが困難なほど経営能力が欠如しているということはできない。

 したがって、「正当な理由」があるとは言えず、Dは甲社に対して会社法339条2項類推適用により、損害賠償請求をすることができる。

3.そのため、Dは甲社に対して2年分の報酬である960万円を損害として請求することができるといえそうであるものの、2020年の甲社の定款変更により甲社取締役の任期が1年に短縮されているため、Dには1年間甲社取締役として選任されるという期待しか発生していない。そのため、Dに生じた損害は1年分の報酬である480万円にしか過ぎない。

 よって、Dは甲社に対して480万円を会社法339条2項類推適用により請求することができる。

設問2

1.Jは会社法847条1項の株主代表訴訟を提起することによって、会社法423条1項に基づいて本件事業譲渡契約によって戊社に生じた損害の賠償をGに求めているが、このような請求が認められるか検討する。

(1)Gは戊社の代表取締役であるため、「取締役」に当たるということができる。

(2)「任務を怠ったこと」が認められなければならないところ、本件事業譲渡契約の際にデューデリジェンスを行うべき義務を負っていたにもかかわらずデューデリジェンスを実施せず本件事業譲渡契約を締結しているため、Gには任務懈怠があったといえそうである。

 しかし、高度な経営判断について任務懈怠が認められてしまうと取締役の活動が萎縮し、会社、ひいては株主の利益に反するため、高度な経営判断に関しては判断の過程及び判断の内容について著しく不合理な点がある場合に限り任務懈怠が認められるとされる。

 本件事案における本件事業譲渡契約というものは、戊社が含まれる甲社のグループの形成に関わるものであるため、高度な経営判断に属するものということができる。

 確かに、戊社の取締役であるHの知人弁護士は事業の買収を行う場合に常にデューデリジェンスが要求されるわけではないと述べているものの、Hは乙社の財産管理のずさんさを知っており、知人弁護士からもそのような事情がある場合にはデューデリジェンスを行ったほうがよいとのアドバイスを受けているため、本来デューデリジェンスを行うべきであったということができる。にもかかわらず、デューデリジェンスを行わなかったのは戊社に対して取締役の選解任権をもつ甲社の代表取締役であるAから本件事業譲渡がなければGとIの専任はないと脅され、また、乙社も本件事業譲渡が行われなければ法的整理を行うと甲社を含めたグループに対して損害を与える旨の脅しを行ったためである。

 そのため、判断過程は著しく不合理なものといえる。

 さらに、判断内容も本来行うべきはずのデューデリジェンスを行わないのであるから著しく不合理なものといえる。

 したがって、経営判断原則により任務懈怠がなかったということはできない。

 よって、Gの任務懈怠が認められる。

(3)さらに、これによって戊社は4000万円を支出している。しかし。このうち1000万円については本件事業譲渡契約の対価として適正なものであることから、戊社に発生した損害は3000万円ということができる。

 よって。3000万円の「損害」と因果関係が認められる。

2.よって、Jは株主代表訴訟によって、Gに対して甲社に3000万円を支払うよう請求することができる。

設問3

1.丁銀行は戊社に対して会社法9条に基づいて債務の弁済を請求することが考えられるため検討する。

 乙社は戊社に対して「自己の商号」である登録商標Pの利用を許諾しているため、自己の商号の使用を「他人に許諾」したといえる。

 また、「当該会社が当該事業を行う者と誤認して他人と取引をした者」に出なければならないところ、戊社は乙社とともに登録商標Pを利用した商品の販売を行っていることから、戊社を当該事業を行う者と誤認したことについて相当の理由があるといえそうである。

 しかし。丁銀行が乙との間で融資を行ったのは令和2年6月までのことであり、戊社に商標Pの利用が許される前のことである。そのため、丁銀行は戊社と乙社を「誤認した」とは言えない。

2.したがって、丁銀行は戊社に対して会社法9条に基づいて乙社の残債務の弁済を請求することはできない。