ロープラクティス商法 問題19

有利発行に関する取締役の損害賠償責任の問題です

 この解いた問題はロープラ商法第三版収録ですので第四版の内容とは異なります。

Law Practice 商法〔第4版〕

Law Practice 商法〔第4版〕

  • 作者:黒沼 悦郎
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 単行本
 

 

 設問(1)

1.本件事案においてXはYに対し、A社がYの有利発行によって4000万円の損害を受けたとして会社法423条1項に基づく損害賠償請求をしようとしているが認められるか検討する。

(1)会社法423条1項によれば、取締役の任務懈怠によって会社に損害が発生した場合、取締役は会社に対して損害賠償責任を負うとされる。

(2)本件事案においてYは株主総会を開催せずに本来1株900円のA社株式を1株700円という著しく有利な価格で発行していることから、会社法199条3項に基づいて株主総会を開催すべきであるにも関わらず、このような手続きを経ずに新株の発行を行っている。そのため、Yは会社法199条3項の規定に基づいて新株の発行を行うべきであるにもかかわらず行わないという任務懈怠があったといえる。

(3)これによって会社に損害が生じたといえなければならないが、新株の有利発行が行われたとしても、会社に損害は生じない。

2.そのため、会社法423条1項の損害が生じていなかったといえるため、XはYに対して会社法423条1項に基づいて損害賠償請求をすることはできない。

設問(2)

1.本件事案においてXはYに対して会社法429条1項に基づいて損害賠償請求を行おうとしているが、このようなXの請求は認められるか検討する。

(1)会社法429条1項によれば、取締役が悪意又は重過失によって第三者に損害を与えた場合には損害賠償責任を負うとされる。

(2)本件事案において、Yは違法に有利発行を行い故意にXに200万円の損害を与えているということは認められる。

(3)会社法429条1項にいう第三者に株主が含まれるといえるためには、間接損害ではなく直接損害を被ったといえなければならない。

 本件事案におけるA社は有利発行を行うことによって自社の株式の価格を一株900円から800円に低下させたことにより、株主に損害を与えているといえる。しかし、この有利発行の際Yは株主に対する通知を行わず、株主に損害を与えることを認識しつつ有利発行を行っているため、直接損害を与えたものとみることができる。

(4)したがって、XはYに対して会社法429条1項に基づき200万円の損害賠償請求を行うことができる。

2.よって、Xは200万円の損害賠償請求を行うことができる。