平成26年司法試験商法

平成26年司法試験商法を解いていきます

 

 

設問1

1.まず、Cは会社法210条に基づく新株発行の差し止めや、会社法828条1項2号に基づく新株発行無効の訴えを主張することが考えられる。 

 しかし、平成24年6月の株主総会で決議された新株発行は行われているとされているため、会社法210条に基づく新株発行の差し止めを行うことはできず、平成24年6月に新株発行が行われたことから、平成26年4月の時点では既に株式の発行の効力が生じた日から6か月はすでに経過している。

 そのため、会社法2110条に基づく新株発行の差し止めや、会社法828条1項2号に基づく新株発行向こうの訴えを提起することはできない。

2.次に会社法829条1号に基づく新株発行の不存在確認訴訟を提起することが考えられる。

(1)会社法829条には、新株発行不存在確認の訴えを提起居するための要件について規定していないものの、新株の発行が存在しなかったといえるほどの手続きの違法があればよいと考えられる。

(2)本件事案において、甲社は平成24年6月に新株発行のための株主総会決議がされたことを理由として新株の発行が行われた旨の登記がなされているものの、平成26年6月にACDEが集まったのは、甲社の将来の運営についての相談であり、株主総会として行われたものではなく、さらに、新株の発行についてCは反対の意見を表明しており、Aも賛成の意見を述べていない。そのため、新株発行に必要な会社法199条1項の株主総会決議は行われていないといえる。

 さらに、Dは400株の発行の際の出資についてE所有の建物を甲社に譲渡することによって行っているものの、会社法207条1項において必要とされる検査役の選任や、会社法207条9項4号に基づく証明を行っていない。そのため、出資の手続きも会社法207条に違反していたものといえる。

(3)そのため、もはや株主総会が存在せず、新株の発行は行われていなかったといえるほどの違法があるといえる。

3.したがって、Cは会社法829条1号に基づき新株発行不存在の訴えを提起することができる。

4.新株発行が不存在であると確認された場合、新株発行自体とそのための出資の履行は無効であるため、Eの甲に対する建物の譲渡は無効であり、Eの有する400株の株式も無効なものといえる。

設問2

1.本件借り入れについて、会社法356条1項2号の利益相反取引に当たり無効であると主張することが考えられる。

(1)会社法356条1項2号によれば、利益相反取引であるといえるためには、自己または第三者のために取引を行うことを指す。

 本件事案において、Eは甲社を代表してHから2億円を年利10%で借り入れているものの、Eが借り入れを行ったとしてもEに利益は帰属しないため、自己または第三者のためであるということはできない。

(2)したがって利益相反を理由に本件借り入れの無効を主張することはできない。

2.次に本件借り入れは、会社法362条4項2号にいう多額の借財に当たるにもかかわらず、取締役会決議を経ていないため無効であると主張することが考えられる。

(1)会社法362条4項2号によれば、多額の借財を行うためには取締役会決議が必要であるとされる。

 本件事案における甲社の売り上げは平成22年時点で2億円程度であり、資本金の額も4000万円に過ぎないことから、甲H間の2億円の借り入れは、高額であり、会社法362条4項2号にいう多額の借財に当たる。

 そのため、甲社において取締役会決議を経なければならないものの、Eは独断で行っており、取締役会決議があったとは言えない。

(2)そのため、甲社は、本件借り入れは、会社法362条4項2号に違反し無効であることを主張することができる。

3.これに対してHは本件借り入れについて会社法362条4項2号違反があったとしても無効とならないと主張することが考えられる。

(1)会社法362条4項2号違反があった場合、会社が無効を主張するためには、相手方が取締役会決議を経ていないことについて悪意であったといえなければならない。

 本件事案において、Hが本件借り入れの際に会社法362条に違反して行われたと知っていたといえるような事情はない。そのため、Hは会社法362条違反について悪意であったとは言えない。

(2)したがって甲社は本件借り入れについて会社法362条違反があったことを理由として本件借り入れの無効を主張することはできない。

4.よって、Hの反論が認められ、本件借り入れの無効を主張できない。

設問3

1.まず、CはD及びEに対して会社法423条1項に基づく損害賠償請求を主張することが考えられるため検討する。

(1)会社法423条1項によれば、取締役が任務を怠り会社に損害を与えたといえなければならない。

 本件事案において、Eは乙に対する貸し付けが回収可能か検討するべきであるにもかかわらず、検討することなく本件貸し付けを行い、本件貸し付けについて金銭の返還を受けられないことを確実にさせているため、Eには任務懈怠があったといえる。また、DもEの本件貸し付けについて会社法362条2項に基づく監督義務を果たすべきであるにもかかわらず、行っていないため、Dにも任務懈怠があったといえる。

 さらに、この貸付によって、本件借り入れ分である2億円についての債務が残っているため、甲社には少なくとも2億円の損害が発生したということができる。

(2)しかし、Eは登記上取締役として記載されているものの、この取締役の選任はAD間での話し合いによって行われており、会社法329条1項の株主総会決議があったとは言えない。そのため、Eは甲社取締役ではないといえそうである。これに対して、会社法908条1項により、登記されている以上善意の第三者に対抗できないといえそうであるが、CはEが取締役でないことについて知っているため、この主張をすることはできない。

(3)また、Dは解任されており取締役でないと主張することが考えられる。しかし、Dの解任について株主総会決議を経ていない以上Dの解任は無効である。そのため、Dはいまだ甲社の取締役ということが言えるため、会社法423条1項の損害賠償責任を負う。

(4)ただし、Eは故意に甲社に損害を与えているため、民法709条に基づいて損害賠償責任を負うといえる。

(5)よって、Dは会社法423条に基づき、Eは民法709条に基づき甲社に対して2億円の損害賠償責任を負う。

2.次に甲社はEに対して所有権に基づく移転登記請求を行うことが考えられるため検討する。

 甲社は本件土地について所有権を有しており、Eが登記を有しているFを相続している。そのため、甲社はEに対して移転登記手続き請求を行うことができるといえる。

3.会社法847条1項に基づき、移転登記手続請求や、損害賠償請求を行うことができるか検討する。

(1)会社法847条1項によれば、株主は取締役の責任追及に関する訴えを提起することができるとされている。

(2)本件事案における、D及びEに対する損害賠償請求は責任追及に関するものであるといえるため、会社法847条1項に基づいて請求することができるといえる。

 一方、Eに対する移転登記手続き請求はEの責任とは無関係であるため、会社法847条1項に基づいて請求することはできない。

 また、Cは6か月前から引き続き株式を有する株主であるため、会社法847条1項に基づき株主代表訴訟を提起するよう請求することができる。

4.したがって、Cは会社法847条1項に基づいてEに対して民法709条に基づく不法行為に基づく損害賠償請求を、Dに対して会社法423条1項に基づく損害賠償請求をすることができるといえるものの、Eに対する移転登記手続き請求について会社法847条1項に基づいてすることができないといえる。

以上