ロープラクティス商法 事例②

ロープラ商法の事例②の解答を上げておきます。

事例①についてもそうですが、疑問点、間違い等があれば、このブログのコメントか法科の趣味人のツイッターにリプライを送ってください。

 

Law Practice 商法〔第3版〕

Law Practice 商法〔第3版〕

 

 

 

以下のように考えた

①政治献金が会社の目的内の行為か

 民法34条によれば、法人は定款記載の目的外の行為について権利能力を有しない。そのため同様に会社法3条により法人格を有する会社も定款記載の目的外の行為について権利能力を有しない。

 しかし、第三者に当該行為が目的内の行為か否か判断させるのは適当でなく、またこれによって会社に法律行為の効力が帰属しないとすると、取引の安全性を害することになる。そのため、定款に記載された目的自体に包含された行為であっても、目的遂行に直接または間接に必要な行為は会社の目的内の行為として含まれるべきであると解される。また、この必要性は抽象的に判断される。

 →本件事案における企業献金は目的外行為であるが、目的遂行に必要な行為である(会社の利益となるように政策決定が行われることにより、会社の利益をはかることができる)。

②政治献金辞退が公序良俗に反しないか

 民法90条によれば、公序良俗に反する法律行為は無効であるとされているため、政治献金自体が公序良俗に違反するか検討する。

 最高裁昭和45年6月24日判決は、以下のことから会社の政治献金公序良俗に違反しないと考えている。

 a 憲法上の人権規定は性質上可能な限り法人にも適用すべきであり、意見表明を禁じる理由はないため、会社は自然人と同様政治的行為をする自由がある

 b 会社が政党に政治献金を行うと選挙権の侵犯となるおそれがあるものの、憲法上公共の福祉に反しない限り会社と言っても政治資金の寄付をする自由があるといえる。

 →本件事案における政治献金政治資金規正法違反とならない程度のものであるため公序良俗に違反した政治献金を行っているとはいえず、民法90条により無効となる政治献金とはいえない。

③政治献金を行うこと自体が会社法355条の善管注意義務に違反しないか

 取締役は会社の有する財産を不当に害することはできないため、取締役が政治献金をなすにあたっては、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位及び寄付の相手方など諸般の事情を考慮して合理的な範囲においてその金額等を決すべきであり、この範囲を超え、不相当な寄付をしたような場合は、取締役の忠実義務違反になる。

 →本件事案における、政治献金は妥当な範囲内で行われた者であり、善管注意義務に違反しない。

 

そのため、自分としては答案に以下のように書いた

1.政治献金がA社の目的の範囲内か検討する

民法34条によれば、法人は定款記載の目的外の行為について権利能力を有しない。そのため同様に会社法3条により法人格を有する会社も定款記載の目的外の行為について権利能力を有しない。しかし、第三者に当該行為が目的内の行為か否か判断させるのは適当でなく、またこれによって会社に法律行為の効力が帰属しないとすると、取引の安全性を害することになる。そのため、定款に記載された目的自体に包含された行為であっても、目的遂行に直接または間接に必要な行為は会社の目的内の行為として含まれるべきであると解される。また、この必要性は抽象的に判断されている。

本件事案において、A社の定款によれば、A社の目的は「精密機器の製造及び販売並びにこれに付帯する事業」とされている。そのため、政治献金を行うことはこの定款の目的に含まれていないといえる。しかし、このような政治献金は会社が政党に働きかけることにより間接的に会社に有利な政策が実行される期待が高まるため、会社の事業のために必要な行為であるといえる。

したがって、本件事案における政治献金民法34条に反した政治献金であるとはいえない。

2.政治献金自体が公序良俗に違反するか検討する。

 会社には性質上可能な限り憲法上の人権規定による保障が及び、会社が意見表明意を行うことを禁止する理由はないため、会社は政治活動を行う自由を有しているといえる。また、会社が政治献金を行うことにより、国民の選挙権が侵害されるおそれがあるものの、公共の福祉に反しない限り政治献金を行うことはできるとされている。この公共の福祉に基づく規制として政治資金規正法があり、これに反しない限りは民法90条公序良俗に違反しない政治献金を行うことができる。

 本件事案において、A社は2500万円をB政党に寄付しているものの、この金額は政治資金規正法による上限額である3000万円を下回っているため、公序良俗に違反しない政治献金となっている。

 したがって、本件事案における政治献金民法90条に反した政治献金であるとはいえない。

3.政治献金を行ったこと自体が取締役の善管注意義務に違反しないか検討する。

 会社法355条によれば、会社の取締役は会社に対して善管注意義務を追っているため、取締役は会社の財産を不当に害する行為を行うことはできない。そのため、取締役はその会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位及び寄付の相手方など諸般の事情を考慮して合理的な範囲内で政治献金を含めた寄付を行うことができるとされている。

 本件事案において、A社は日本経済における不景気によりスリム化を進めなければならない状態にある会社であるといえるものの、経常利益として1億円を計上しており、更に会社の資本金も80億円あるため、2500万円の政治献金を行っても会社財産に大きな影響を及ぼすおそれはない。そのため、A社のした政治献金は合理的な範囲で行われた献金であるということができる。

 したがって、本件事案の政治献金を行ったYの行為は会社法355条違反の行為であるとはいえず、Yは損害賠償責任を負わない。