ロープラクティス商法 問題45

ロープラクティス商法の問題45を解いていきます。

この問題は監査役に対する責任追及に関する問題ですが、責任限定契約に関する論点も含まれています。

 

Law Practice 商法〔第4版〕

Law Practice 商法〔第4版〕

  • 作者:黒沼 悦郎
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 単行本
 

 

 設問(1)

1.会社法339条1項によれば、株主総会決議によって監査役を解任させることができるとされている。この際の決議は会社法309条2項7号によれば、特別決議を必要とするとされる。また、会社法345条4項により準用される同条1項によれば、監査役を解任する際監査役の意見陳述の機会を与えなければならないとされる。

 そのため、本件事案において、Yを適法に解任させるためには、X社の株主総会において、Yに意見陳述の機会を与えたうえで特別決議を得ることによりYを適法に解任させることができる。

2.会社法339条2項によれば、会社は解任によって生じた損害の賠償をしなければならないとされる。本件事案において、Yは平成24年監査役に選任されて2期目の任期にある。会社法336条1項上監査役の任期は4年とされていることからすると、平成32年まで任期があったということができる。そのため、解任によって、Yには2000万円の損害が発生したということができる。

 これに対して、会社法339条2項によれば、解任について正当な理由があれば、会社法339条2項の損害賠償責任を負わないとされる。本件事案におけるYは財務や会計についての知識がなく、任命されてから独習していた程度であることから、X社の会計監査を行う能力はなかったということができる。さらに、X社の経理部長Bが粉飾決算による計算書類への虚偽記載を行った際も適正監査意見を出していることから、会社に損害を与えてしまっている。そのため、Yは監査人としての能力がなく、監査人を続けさせることもできないことから、Yを解任したことについて正当な理由があるということができる。

 したがって、XはYに対して会社法339条2項に基づく損害賠償請求を行うことができない。

設問(2)

 1.会社法423条1項によれば、監査役任務懈怠があり、それによって会社が損害を被った場合、会社は監査役に対して損害賠償請求をすることができるとされる。

(1)会社法382条によれば、取締役が不正な行為を行っている場合や、取締役が法令又は定款違反の行為を行っている場合取締役会に報告しなければならないとされる。そのため、監査役は取締役の業務に対する監督義務を負いさらに、取締役会に対する報告義務を負っていると解される。

 このような義務を負っているにもかかわらず、Yは自身に監査を行う能力がないために監督義務を怠り粉飾決算や横領の存在を見落とし、さらに、取締役会への報告も行っていない。そのため、Yは監督義務にも報告義務にも違反したということができる。

 よって、Yには任務懈怠があったということができる。

(2)また、粉飾決算や横領によりX社は5000万円の損害を被っている。この原因はYが十分な監査を行わず、さらに、取締役会への報告もしなかったことにあるため、因果関係もあるということができる。

(3)したがって、Yは会社法423条1項に基づきX社に対して損害賠償義務を負う。

2.本件事案において、YはX者との間で責任の一部免除の契約を締約しているため、会社法427条1項により責任の範囲が限定されないかが問題となる。

 会社法427条1項によれば、会社と監査役は定款の定めがある場合責任限定契約を締約することができるとされる。この限定される範囲は会社法425条1項1号ハ、会社法施行規則113条1号イによれば、報酬の2年分に限定させることができるとされる。

 本件事案においてYはXとの間で責任限定契約を締約していることから、Yの王損害賠償額は1000万円に限定されると考えられる。しかし、X社が定款に責任限定契約について記載したか不明である。そのため、Yの責任限定契約は無効であるとも考えられる。

 よって、YはX社に責任限定契約の定款がある場合に限り責任限定契約の主張をすることができる。