今回は、利益供与に関する問題です。平成30年度司法試験に出た内容であるとされているので、わたしもきちんと押さえておきたいと考えています。
下書き
設問(1)
株主総会決議の取り消し
会社法831条1項1号によれば、株主総会決議の方法が法令定款に違反しておれば、株主総会決議の取り消し事由になる。
この取り消し事由には、株主総会の際の利益供与が含まれる。
利益供与
株主総会の運営を適正にすることと、会社経営の健全性を確保すること、株主総会に際しての会社の浪費の防止のために、会社法上の利益供与は禁止されている。
会社法120条1項によれば、株主の権利行使に際して、利益の供与を行ってはならないとされている。この利益の供与については、会社の計算において利益を供与したかによった判断される(東京地裁平成11年9月8日判決)。
→本件事案においてY1らはA社にZの10億円の債務の肩代わりを行っているが、これはA社の計算において10億円の損失を与えるものである。
=利益供与
設問(2)
利益供与の事実
利益供与といえるためには、株主の権利行使に際して行われたといえなければならない。
会社が、株式を譲渡することの対価として利益を供与することは、原則として利益供与に当たらない。
例外的に、会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で、当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は株主の権利行使に際して行われたということになる。
→本件事案において、Zが保有株式の一部をすでに暴力団に譲渡しており、それを買い戻すために50億円必要であるといわれたことから、50億円を供与している。
これは、会社から見て好ましくないものが権利行使を行うことを回避する目的で利益供与を行っているため、株主の権利行使に際して行われたということができる。
会社法120条3項によれば、利益供与によって利益を受けたものは、その利益を会社に返還しなけえばならないとされている。そのため、Zは受けた利益を会社に返還しなければならない。
会社法120条4項によれば、利益供与に関して、会社法規則21条に規定する株主は、供与した利益に相当する額を支払うべき義務を負う。また、会社法規則21条1号によれば、利益の供与に関して職務を行った取締役は利益供与に関して責任を負うとされる。そのため、Y1は責任を負う。
答案
設問(1)
1.会社法831条1項1号によれば、株主総会の決議の方法が法令に違反している場合には、当該株主総会について、株主総会決議取り消し訴訟を提起することができるとされている。この会社法831条1項1号の事由には、会社法120条1項の利益供与の禁止も含まれている。
会社法120条1項によれば、会社法上禁止される利益供与であるといえるためには、株主総会決議に際して、会社の計算において利益の供与を行ったといえなければならない。
本件事案において、Zが今年度開催される株主総会において会社提案に賛成することを内容としているため、株主の権利行使に際して行われている。また、Y1らは、Zが金融機関に対して負っている10億円の債務を取引の形を装って肩代わりしているが、これは、A社の計算において損失を与えるものであるため、会社の計算において利益供与を行ったということができる。
2.したがって、会社法831条1項1号にいう株主総会決議の方法が法令に違反しているということができるとして、本件決議について取り消すことができる。
設問(2)
1.会社法120条の責任について検討する。
(1) 会社法120条1項における利益供与とは、株主の権利行使に際して利益を供与したといえなければならない。この利益の供与に関して、株式の譲渡に関して会社が利益を供与することは原則として、利益供与に当たるとは解されないもののその譲渡に関して利益を供与する目的が、会社にとって好ましくない者によって議決権が行使されることを回避する目的であった場合には、株主の権利行使に際して利益供与を行ったということができる。
本件事案において、Y1らは、Zが保有株式の一部を、すでに暴力団に譲渡しており、それをZが買い戻すためには50億円が必要であるといわれたことから、Zに対して50億円を供与しているが、これは、株式の譲渡に関して利益を供与したということができるが、この目的は、会社にとって望ましくないと考えられる暴力団による株主の権利行使を防ぐことを目的としているため、株主の権利行使に際して利益供与を行ったということができる。したがって、A社取締役のY1らは利益供与を行ったということができる。
(2) 会社法120条3項によれば、利益供与によって利益を受けた者は会社に対して受けた利益を返還しなければならないとされる。本件事案においてZは利益供与によって利益を受けているため、Zは受けた利益である50億円について返還する義務を負う。
(3) また、会社法120条4項によれば、利益供与に関係した取締役として会社法規則21条に規定される者は、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。本件事案において、Y1らは、会社法規則21条1号にいう利益の供与に関する職務を行った取締役ということができる。そのため、Y1らは会社法120条4項にいう取締役として、供与した利益に相当する額を支払う義務を負う。
2. したがってY1らとZは会社法120条に基づき利益供与に際して支払われた50億円を支払う義務を負う。