刑法事例演習教材 事例37

刑法事例演習教材の事例37を解きました。

この事例は、窃盗罪と詐欺罪の区別と、不作為の詐欺罪が大きなテーマとなっているように思われます。

この問題について僕は窃盗罪に当たるのではないかとして検討していますが、正解なのでしょうか?

おかしな点等があればコメントにお願いします。

 

刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材 第2版

 

 

 

 

第一.乙の罪責

1.詐欺罪の共同正犯の成否

 乙は甲からの指示に基づいて、Aの家に行き、Aの妹Bに「スポーツ用品メーカーのC社の者です。A選手からバットとグローブの手入れを依頼されて来ました」と述べ、A選手のバットとグローブをBに取ってこさせたうえで持ち出しているが、このような乙の行為が詐欺罪の甲との共同正犯による行為に当たるか検討する。

(1)後述の通り、甲は乙に指示を与えているため、乙は刑法60条により共同正犯としての罪責を負う。

(2)刑法2461項により詐欺罪が成立するためには、①人に対する財物の交付に向けられた欺罔行為があることと、②交付行為がされたといえなければならない。

 本件事案において、甲は自身がスポーツ用品メーカーの者として、A選手の野球用品を預かる立場にあると偽り、BA選手の野球用品を玄関まで持ってこさせているが、乙は、A選手の野球用品を自身に手渡させることを目的としているのではなく、A宅にある野球用品をBという事情を知らない第三者に持ち出させることを目的としている。また、乙がとりあえずBに野球用品を持ち出させたのはAの者であるか確認するためのものであったため、乙の欺罔行為は、Aの野球用品の交付に向けられた者であるということはできない。

(3)したがって、詐欺罪は成立しない。

2.窃盗罪の共同正犯

 乙は甲からの依頼を受けたうえで、A宅においてBが持ってきた野球用品を持ち出しているが、このような乙の行為が甲との共同正犯による窃盗罪に該当しないか検討する。

(1)本件事案において、後述の通り甲と乙には共同正犯が成立するため、乙は刑法60条の共同正犯としての罪責を負う。

(2)刑法235条により窃盗罪が成立するためには、①他人の占有する財物であると認められることと、②窃取行為があったといえなければならず、また、③不法領得の意思によるものであったといえなければならない。

(3)本件事案におけるAの野球用品はA宅に置かれ、Aが管理している者であるため、Aの占有するものであるということができ、さらに、乙は甲に渡す意思の下持ち出すという不法領得の意思に基づく財物の移転を行っていることから、不法領得の意思に基づく窃盗行為があったということができる。

(4)よって乙は甲と刑法235条の窃盗罪の共同正犯としての罪責を負う。

3.詐欺罪の成否

 乙はAのバットとグローブが盗品であると告げずに、丙に20万円で渡しているが、このような乙の行為が詐欺罪に該当するか検討する。

(1)刑法2471項の詐欺罪を不作為によって成立させるためには、①財物の重要事実についての告知する義務があるにもかかわらず、告知せず財物の交付を行ったということができ、②財物を交付させたということができ、③作為可能性があったと言ことがいえなければならない。

(2)本件事案において、乙は丙にAのバットとグローブが盗品であると告げていないものの、乙と丙にの売買は継続的な売買や、市場での売買ではなく、私的領域内のものであるため、盗品であるか否かについて告知することが期待される状況とはいえない。そのため、乙には丙に対する告知義務がない。

(3)そのため、乙は刑法2461項の詐欺罪に当たる行為を行っているということはできない。

4.横領罪の成否

 乙は丙にAのバットとグローブを20万円で渡しているがこのような乙の行為が横領罪に該当するといえるか検討する。

(1)刑法252条の横領罪が成立するためには、①委託を受けた自己の占有する他人の財産であること、②横領行為があったといえなければならない。

(2)本件事案におけるAのバットとグローブは甲の所有物ではないため、委託した他人の物であるとは認められない。

(3)したがって横領罪は成立しない。

5.背任罪の成否

 では、乙が甲からの依頼を受けているにもかかわらず丙に20万円でAのバットとグローブを売った行為が刑法247条の背任罪に該当しないか検討する。

(1)刑法247条の背任罪が成立するためには、①他人の事務処理者であることと、②背任行為があったこと、③図利加害目的によるものであったと認められなければならない。

(2)乙は甲よりAの野球用品を盗んできて甲に引き渡すことを依頼されたものであることから、他人の事務処理者であるということができる。

(3)背任行為とは、事務の目的に背き、財産上の損害を与える行為を指す。本件事案において、乙は、甲の依頼内容であるAの野球用品の引渡しという事務の目的に背き、甲がAの野球用品を得られないようにし、財産上の損害を与えている。

 そのため、乙は背任行為を行ったということができる。

(4)図利加害目的とは、自己の利益を図ること又は相手方を害する目的を有することを指す。本件事案において、乙は20万円を得るために背任行為を行っていることから、図利加害目的があったということができる。

(5)したがって、乙には刑法247条の背任罪が成立する。

6.詐欺罪

 乙は甲に「Aの家には妹のBがいて盗みに入ることができなかった」と告げることによって3万円を返さなくてよくなっているが、このような乙の行為に刑法2462項の詐欺罪が成立するか検討する。

(1)刑法2462項により詐欺罪が成立するためには、①財物の処分に向けられた欺罔行為が存在すること、②財産上の利益を得たということがいえなければならない。

(2)本件事案において乙は、甲に3万円を返すために上記嘘を述べているが、この嘘は財産の処分に向けられたものとはいえない。

(3)したがって乙に詐欺罪は成立しない。

7.よって乙には窃盗罪の共同正犯と、背任罪が成立し、刑法45条により併合罪となる。

第二.甲の罪責

 甲は乙にAの野球用品を盗むよう指示し、乙に野球用品を盗ませているが、このような甲の行為が、乙との窃盗罪の共同正犯に該当するか検討する。

(1)刑法60条の共同正犯が成立するためには共同して犯罪を実行したといえなければならない。また、共同実行の態様として共謀共同正犯があり、互いに謀議し謀議に基づいてそれぞれの行為を行った場合に成立する。

 本件事案において、甲と乙はAの野球用品の窃取について謀議し、その謀議に基づいて、甲と乙はそれぞれ行動していることから、甲と乙は共謀共同正犯ということができ、刑法60条に基づき共同正犯としての罪責を負う。

(2)また、先述の通り乙は窃盗を行っているため、甲は乙と窃盗罪の共同正犯としての罪責を負う。

 

 財産犯間の区別に関するものは、この本が参考になります。ぜひ読んでみてください。