刑法事例演習教材事例 事例27

今回の問題は横領罪に関するものです。

正直、Bに対する横領罪は横領行為なしとして不成立とすべきであったのではないかと記事を上げる段階で後悔しています。

他におかしな点があれば、コメントにお願いします。

 

刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材 第2版

 

 

 

 

第一.甲の罪責

1.甲はAとの間で宅地80坪の売買契約を締約したにもかかわらず、宅地をBに売っているが、このような甲の行為が刑法2521項にいう横領罪に該当しないか検討する。

(1)刑法2521項に基づき、横領罪が成立するためには、①自己の占有する他人の所有物であることが認められていること、②占有についての委託を受けていること、③横領行為を行ったといえなければならない。

(2)甲はAとの間で所有権の移転時期を定めず売買契約を締結していることから、民法176条に基づきこの売買契約の締結時点で宅地の所有権はAに移転しているということができる。また、甲はAに所有権移転登記を行うまでの間契約上宅地を占有することのできる地位が与えられ、それに基づいて占有しているから、宅地は甲が委託を受けて占有しているということができる。

 そのため、宅地は委託を受けて占有する他人の物に当たる。

(3)横領行為とは不法領得の意思の実現であることから、財物の所有権者でなければできない財物の使用、収益、処分を行うことを指す。

 本件事案において、甲はBとの間で売買契約を締約しているが、このように売買契約を締結し、他人に物の所有権を移すことは本人でなければできないため、甲は財物の所有権者でなければできない財物の処分を行ったということができる。これに対して、Bは甲B間の売買契約を解除したため、横領行為は行われていないと主張することが考えられるものの、所有権というものは意思表示の時点で移転するため、甲B間の売買契約を締結した時点で横領行為は既遂に達したということができる。

(4)したがって甲には横領罪が成立する。

2.甲はAとの間で売買契約を締結したにもかかわらず、宅地にCの抵当権を設定し、抵当権設定登記を行っているが、このような甲の行為が刑法2521項の横領罪に該当するか検討する。

(1)刑法2521項によれば、横領罪が成立するためには①委託を受けて占有する他人の物であることが認められることと、②横領行為を行ったということがいえなければならない。

(2)先述の通り宅地は甲が委託を受けて占有するAの所有物であることから、委託を受けて占有する他人の財物に該当する。

(3)横領行為とは不法領得の意思の実現行為であり、本人にしかできないような使用、収益、処分を行うことを指す。

 本件事案において甲は宅地にCの抵当権を設定し、抵当権設定登記を了しているが、このような抵当権の設定行為というものは設定者の債権の担保のためのものであり、設定が行われた場合、目的物の交換価値を低下させるため、本人にしかできないような処分行為に該当するということができる。

(4)したがって甲には横領罪が成立する。

3.甲はAとの間で売買契約を締結したにもかかわらず、乙に売却し、乙に対する所有権移転登記を完了させているが、このような甲の行為が刑法2521項の横領罪に該当しないか検討する。

(1)刑法2521項に基づいて横領罪が成立するためには、①委託を受けた他人の財物であることが認められること、②横領行為があったことが認められなければならない。

(2)本件事案における宅地は先述の通り、甲が委託を受けて占有する甲の財物に当たる。

(3)横領行為とは不法領得の意思の実現行為を指し、本人にしかできない使用、収益、処分行為を行うことを指す。

 本件事案において、甲は宅地を乙に売り、乙の所有権移転登記を完了させているが、このような所有権移転行為は所有権を確定的に他人に帰属させる行為といえるため甲は乙に宅地を売り、所有権移転登記を完了させることにより、本人にしかできない処分行為を行ったということができる。

(4)したがって、甲には横領罪が成立する。

4.甲は宅地について3個の横領行為を行っているが、同一財産に対する行為であり、Aに対する被害である点では変わらないため、これらの3個の横領罪は包括一罪に当たる。

第二.乙の罪責

1.乙は甲から事情を知らされたうえで宅地を買受けているが、このような乙の行為が刑法2562項の盗品有償譲受罪に該当するか検討する。

(1)刑法2562項の有償譲り受けの罪が成立するためには①盗品その他財産に対する罪によって領得されたものであることと、②領得者からの事情を知ったうえで有償で買い受けたということが認められなければならない。

(2)本件事案におけるCの抵当権のついた宅地は甲が横領行為により取得したものであるため、財産に対する罪に当たる行為により領得された物ということができる。

(3)本件事案において、乙はCの抵当権のついた宅地について甲から事情を聞かされた上で買い受けていることから、財産上の罪に該当する行為によって領得されたものであるとの事情を知った上で有償で譲り受けたということができる。

(4)したがって乙には刑法2562項の盗品有償譲り受けの罪が成立する。

2.したがって乙には盗品有償譲り受け一罪のみが成立する。