司法試験平成28年知的財産法を解きました。
設問2と設問3についての解答が全体的に甘い気がします。
他にも何か気になる点がありましたら、コメントにお願いします。
設問1
1.特許権侵害が認められるためには、特許法68条によれば、業としての発明の実施を行ったといえなければならないとされる。
(1)業としての実施といえるためには、社会生活上営利のために反復継続した行為がなければならないが、Yは貸コインロッカーを製造販売し、営利のために反復継続した行為を行っていることから、業としての行為が認められる。
(2)特許発明に該当するか否かは特許法70条1項によれば、特許請求の範囲の記載に基づいて判断される。
本件特許は「鍵を抜き取った状態において、硬貨の投入行為を妨げる手段を設けたことを特徴とする貸ロッカーの硬貨誤投入防止装置」とのクレームからなっている。一方、製品Aも製品Bも硬貨誤投入防止装置が設けられたロッカーであるため、本件特許の特許請求の範囲に含まれているといえそうである。
(3)しかし、特許法70条2項は特許発明の技術的範囲の解釈は願書に添付された明細書の記載をも解釈しなければならないとされている。このことから、Yは本件特許の実施例をみると、金属製の遮蔽板が回転し、硬貨投入口の開閉を行い効果の誤投入を防止する仕組みになっているため、この実施例と異なる製品A製品BはXらの特許請求の技術的範囲に含まれないと主張することが考えられる。
確かに、Yの主張する通り、製品Aと製品Bは本件特許の具体例と異なるものであるが、この具体例をも参照してみると、本件特許の技術的範囲は鍵の抜き差しによって硬貨投入口を塞ぐことによって効果の誤投入を防止する装置を設けたものであるといえることから、製品Aは本件特許の技術的範囲に含まれるといえる。一方、製品Bは硬貨投入口を塞ぐのではなく、警告音が鳴るに過ぎないため、本件特許の技術的範囲に含まれていない。
そのため、製品Aについてのみ本件特許の技術的範囲に含まれる。
(4)物の発明を実施したといえるためには、特許法2条1項3号によれば、物の生産、譲渡を行ったといえなければならない。
本件事案において、Yは製品Aを製造販売していることから、本件特許の技術的範囲に含まれる物を生産譲渡することにより実施したものといえる。
(5)そのため、製品Aは本件特許の特許権を侵害しているといえる。
2.したがってXは製品Aについてのみ、特許侵害を主張することができる。
設問2
小問(1)
1.特許法134条の2第1項によれば、特許無効審判において、訂正の請求を行うことにより、特許無効審判に対する抗弁とすることができるとされている。
Xはこのような訂正請求を行い、無効事由が欠けることを主張することができる。これによって、特許法134条の2第9項に基づき特許無効審判が取り下げられる。
2.また、Yが特許法104条の3の無効の抗弁を主張してきた場合、特許法126条の訂正審判を経て、特許請求の範囲が縮減されたことを再抗弁として主張することができるとされている。ただし、この訂正の再抗弁を行うためには、訂正審判を経たことにより、特許法123条1項各号の無効事由がなくなり、相手方の物が、特許権の技術的範囲に含まれているといえなければならず、さらに、時機に後れた攻撃防御方法となってはならないとされる。
そのため、Xらは、訂正審判を経たことにより、特許法123条1項各号の無効事由がなくなり、相手方の物がXらの特許権の技術的範囲に含まれ、Xらの訂正の再抗弁が時機に後れた攻撃防御方法でないことを主張しなければならない。
小問(2)
行政事件訴訟法3条3項に基づく取消訴訟として、審決取消訴訟を提起することができるとされており、この審決取消訴訟は、固有必要的共同訴訟でないことから、共有特許権者の各人が訴えを提起することができるとされている。
この判決の効力は、当事者間にしか効力がないことから、X1のみが単独で訴訟を提起し勝訴したとしても、X2の本件特許権は無効のままになる。
そのため、本来特許権者であったX2も本件特許権を利用することができなくなってしまうという弊害が発生する。
設問3
1.YはXに対して、民法703条に基づきXらに支払った損害賠償金の返還を求めることが考えられるものの、この返還請求は認められないと考えられる。
本件特許を無効とする審決の効力に遡及効はないことから、本件特許が無効と判断されるまでの間Xらに特許権が存在したことが認められることから、民法703条にいう「法律上の原因なく」という要件を欠くからである。
そのため、YはXに対して、民法703条に基づきXらに支払った損害賠償請求金の返還を求めることはできない。
2.XのYに対する差止請求の勝訴判決の効力は、Yの請求した無効審判によって無効となることはないため、差し止め請求の効力は本件特許の特許権が無効審決によって無効となった後も認められる。
そのため、民事訴訟法338条に基づく再審請求を行わない限りYはXの差止請求の効力が無効であると主張できないといえる。