司法試験平成25年商法

平成25年司法試験商法を解いていきます。

 

 

 設問1

1.会社法127条によれば、株式の譲渡は自由にできるものの、会社法107条1項1号の譲渡制限付き株式が会社法107条2項1号に基づき定款に規定された場合には、会社の承認がない場合、株式の譲渡の効力を会社に対抗することはできないとされている。

 しかし、会社法145条1号によれば、会社法136条又は137条1項の承認請求を行ったにもかかわらず、会社が2週間通知をしない場合に承認したとみなされる。

(1)本件事案において、AはFに50株の株式を譲渡しているものの、甲社株式は甲社定款5条により譲渡制限付株式とされていることから、譲渡の効力を会社に対抗するためには会社の承認を得なければならない。しかし、本件事案において、Aは甲社の承認を得ていない。そのため、会社法145条に基づき承認したとみなすことが可能であるかが問題となる。

 本件事案において、Eは会社法137条1項に基づいて株式譲渡承認請求書を提出しているものの、甲社は2週間たっても通知をしていない。そのため、会社法145条1号に基づいて譲渡が承認されたとみなされるはずである。

(2)しかし、会社法145条1号が譲渡が承認されたものとみなすとしているのは、会社が株式の譲渡があったことを知りつつ株主の権利行使を妨害することを防ぐためであると解される。本件事案において、AはEからの株式譲渡承認請求書の提出があったにもかかわらず、他の取締役に対し連絡を行わず、株式譲渡承認についての判断の機会を与えなかったということができる。

 そのため、会社法145条1号の請求があったと認めることはできず、会社法145条1号によって株式会社が譲渡を承認したとみなすことはできない。

2.したがって、甲社が平成25年総会においてFを株主として取り扱うことはできない。

設問2

小問(1)

1.本件報酬決議の効力を否定する方法として会社法831条に基づく株主総会決議の取り消しの主張が考えられる。そのため、会社法831条に基づく株主総会決議取り消しの訴えを提起することができるか検討する。

(1)会社法831条1項1号によれば、株主総会の招集手続き又は決議の方法が法令又は定款に違反している場合でなければならないとされている。

(2)会社法106条によれば、株式が共有となった場合権利行使者一名を定め株式会社に通知をするか株式会社から同意を得なければならない。共有株式の権利行使者の決定は、共有株式が民法264条の準共有に当たることから、民法252条の共有物の管理の方法として共有者の過半数による決定がなければならないとされる。

 本件事案においてABCは死亡したQの相続人であり、120株を準共有しているといえる。また、B及びCは権利行使者をBと定めているものの、Aを含めた全員で判断していないことから、このような権利行使者の決定は権利の濫用として許されない。そのため、会社法106条の権利行使者の決定はなかったものということができ、Qが有していた株式について権利行使を認めなかったAの措置は会社法106条に基づく適法なものということができる。

 したがって、Qの株式について権利行使を認めなかったAの措置に違法はないということができる。そのため、株主総会決議の取り消しを主張できない。

(3)Fが権利行使をしたことが違法でないか検討する。先述の通り、Fは自己の株式を甲社に対抗することはできないため、会社法130条1項により株式の譲渡の効力を会社に対抗することのできない者として扱われる。

 そのため、Fが権利行使したことについて株主総会の手続きに違法があるということができる。

 したがって会社法831条1項1号により株主総会決議の取り消しを主張することができる。

 しかし、会社法831条2項によれば、裁量棄却をすることができるとされているため検討する。本件事案において、Fの権利行使を認めなかったとしてもAらが過半数を獲得することにより可決されると考えられることから、Fが権利行使をしたことは重大な違法ではなく、決議の効力に影響を及ぼさないということができる。

 そのため、会社法831条1項1号により株主総会決議取り消しの訴えを提起できる者の棄却される。

(4)会社法831条1項3号によれば、特別利害関係人が議決権行使を行ったことによって著しく不当な決議がされたといえる場合に株主総会決議の取り消しを主張することができるとされている。本件報酬決議は取締役全員の報酬を3億円に引き上げることでありAに利益が生じるというものでもない。そのため、Aは特別利害関係人ということはできず、会社法831条1項3号により株主総会決議の取り消しを主張することはできない。

 したがって、会社法831条1項により株主総会決議の取り消しを主張することはできない。

2.よって、BCは株主総会の取り消しを主張することができない。

小問(2)

1.甲社は民法703条の不当利得返還請求としてA,D及びGに対して報酬の返還を請求しているが、上記の通り適法なものであるため民法703条に基づいて報酬の返還を請求することはできない。

設問3

1.平成25年3月17日の時点では会社法209条の期日は到来していないから、会社法210条に基づき新株発行の差し止めを請求することができる。そのため、会社法210条に基づいて差し止めを行うことができるか検討する。

 会社法210条2号によれば、新株の発行が著しく不公正な方法による場合新株発行の差し止めを行うことができるとされている。この著しく不公正な方法によるか否かはもっぱら経営支配権の維持獲得を目的として新株の発行を行ったかによって判断される。なぜなら、新株の発行は資金獲得のために行われる者でありそれ以外のために使用されてはならないからである。

 本件事案において、Aは報酬請求を巡ってBCと対立しており、新株発行の目的も資金獲得目的であるか否か不明確であるといえる。甲社の予定している新株発行は株主割り当てであり新株発行が行われたとしてもB及びCの持ち株割合が低下することはないはずである。しかし、取締役報酬がBCにとってのみ少ない状況において株主割り当てが実行された場合、BCの持ち株割合が低下する可能性は高いものと考えられる。そのため、Aは株主割り当てを自己の経営支配権の維持獲得のために行ったと考えらえる。

 したがって、会社法210条2号に基づいて差し止めを請求することができる。

2.次に、平成25年4月1日は払込期日であり、この日に会社法209条1項に基づいて新株発行の効力が生じることから会社法210条によって差し止めることができず、会社法828条1項2号によって無効主張ができるかが問題となる。

 会社法828条1項2号には無効事由が規定されていないことから、無効主張を行うためには、新株の発行について違法主張を行う機会が与えられなかったといえるほどの重大な違法がなければならない。

 本件事案において甲社は会社法210条2号の不公正発行を行っているものの、この主張は新株発行の効力が生じる前に主張することができたということができるため、会社法828条1項2号の無効事由とはならない。

 したがって、この場合会社法828条1項2号に基づいて新株発行の無効主張を行うことはできない。

以上