ロープラクティス商法問題20

新株発行無効の訴えに関する問題です。

(私は、ロープラクティス商法3版を解いています。)

 

Law Practice 商法〔第4版〕

Law Practice 商法〔第4版〕

  • 作者:黒沼 悦郎
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 単行本
 

 

 1.会社法828条1項2号によれば、新株発行無効の訴えを提起することができるとされているものの、どの様な事由があれば、無効の訴えを提起できるか規定されていない。新株発行無効となった場合会社の株主に与える影響が大きいことから、新株発行無効の訴えを提起するためには新株発行差し止めの訴えを提起することができなかったといえるだけの重大な違法事由が認められなければならない。

 そのため、以下違法事由について分けて検討する。

(1)Xは会社法201条3項、4項の公告を行っていないことを理由としている。このような広告がなされなかった場合、新株発行差し止めについて訴えを提起する機会を奪うことになると考えられる。

 会社法201条3項、4項の通知又は広告を行っていなかったことは会社法828条1項2号の新株発行無効の訴えを提起するための重大な違法事由になると考えられる。

 したがって、Xはこのことを理由として、会社法828条1項2号に基づき、新株発行無効の訴えを提起することができる。

(2)XはBに招集通知がなされなかったため、会社法299条1項に違反することを理由として、新株発行無効の訴えを提起している。

 しかし、この違法事由というものはXに通知がされていることから、新株発行の差し止めを提起することができないほどのものではないと考えられる。そのため、新株発行差し止めの訴えを提起することができないほどの重大な違法事由があるということはできない。

 したがって、このことを理由として、会社法828条1項2号に基づき新株発行無効の訴えを提起することはできない。

(3)XはAによる新株発行は自己の支配権維持のためのものであり、会社法210条2号の不公正な方法による新株発行であることを理由として会社法828条1項2号に基づく新株発行無効の訴えを主張している。

 しかし、自己の支配権維持というものはXの新株発行差し止めの訴えの提起を可能にするかについて関りがないことから、会社法828条1項2号の重大な違法事由に当たらないと解される。

 したがって、Xはこのことを理由として、会社法828条1項2号の新株発行無効の訴えを提起することはできない。

(4)Xは出資の履行を欠いていることから会社法212条1項に違反することを理由として会社法828条1項2号に基づく新株発行無効の訴えを提起しようとしている。

 しかし、出資の履行を欠いた場合は会社法213条や会社法213条の2の規定により取締役や引受人に対して出資の履行を請求することができるため、新株発行を無効としなければならないほどの重大な瑕疵ではない。また、Xが新株発行の差し止めを提起できなくなるような事情であるとは考えられないため、会社法828条1項2号の訴えを提起できるだけの重大な違法事由とは認められない。

 したがって、Xはこのことを理由として、会社法828条1項2号の新株発行無効の訴えを提起することはできない。

2.よって、Xは①の事情を理由として、会社法828条1項2号に基づき新株発行無効の訴えを提起することができるものの、②、③、④の事情を理由として、新株発行無効の訴えを提起することはできない。