ロープラクティス民事訴訟法 基本問題12

ロープラクティス民事訴訟法の基本問題12を解いていきます。

この問題は訴訟物に関する問題で、後遺症による請求を扱っています。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第3版〕

Law Practice 民事訴訟法〔第3版〕

  • 作者:山本 和彦
  • 発売日: 2018/01/11
  • メディア: 単行本
 

 

 設問(1)

1.民事訴訟法246条によれば、裁判所は当事者が申し立てていない事項について判決をすることはできないとされていることから、裁判所は損害賠償請求の額について、訴訟物の範囲でしか認めることはできないとされる。

 本件事案において、AはBに対して不法行為に基づく損害賠償請求として、治療費100万円、逸失利益800万円、慰謝料300万円、合計1200万円の支払いを求めて訴えを提起しているが、裁判所は治療費50万円、逸失利益500万円、慰謝料450万円の合計1000万円の範囲で損害賠償請求を認めようとしている。

 確かに、慰謝料の額についてAの請求した額より増加しているものの、この慰謝料というものはAのBに対する請求の費目であり、訴訟物ではないことから、請求した額より増額されたとしても民事訴訟法246条違反にはならない。また、裁判所の認める損害賠償額についても、Aの請求する範囲内であることから民事訴訟法246条に基づくものであるということができる。

2.したがって、裁判所はこのような合計1000万円の損害賠償請求を認める判決を下すことができる。

設問(2)

1.既判力について

(1)民事訴訟法114条1項によれば、確定判決の既判力は主文に包含する限りにおいて発生するとされる。

 本件事案において、AのBに対する訴えの既判力は不法行為に基づく損害賠償請求として1000万円の支払いを認めるという範囲に発生している。

(2)既判力は前訴訴訟物と同一、先決、矛盾関係に当たる訴訟物について発生するとされている。

 本件事案におけるAのBに対する再度の訴えは同一の事故を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求であることから、訴訟物は同一関係にあるといえる。

 しかし、前訴が明示の一部請求である場合、既判力の発生する範囲は一部請求の範囲に限られることから、もし、明示の一部請求であるといえる場合訴訟物は同一関係にないということができる。しかし、本件事案において、前訴は後遺障害についての損害を含まないものであると明示して行われたものではないため、明示の一部請求が行われたということはできない。

(3)既判力は矛盾した判断について作用するとされ、その様な主張を遮断するとされる。

 本件事案において、もし、後遺障害による損害賠償請求を認めた場合、AのBに対する損害賠償請求の額は1000万円であると判断した前訴と矛盾することになるため、後遺障害による損害の発生の事実は既判力の作用により遮断される。

2.したがって、AのBに対する訴えは棄却される。