新川帆立著『競争の番人』を読みました

新川帆立著『競争の番人』(講談社)を読みました。

独占禁止法の勉強になるかと思ったこと、月9ドラマで取り上げられるため読んでみました。

 

 この小説は、公正取引委員会を舞台に、ホテル天沢Sグループを取り締まるでを描いた物語です。

 基本的には犯罪を捜査して、犯人を推理し、犯人を逮捕する警察小説と形態は似ているのですが、節々で著者の考え、人間に対する見方が現れているように思われます。

例えば、

 踏みつけてくる相手に対して、怒れなくなっているのだ。倒しようがない敵に直面したとき、大きな理不尽に見舞われたとき、だれかを憎んでも苦しいだけだ。恨む気持ちはない、自分が悪かったと考えたほうが楽なのだ。

 自分の足で立って戦うのは辛い。優秀な支配者の差配のもと駒のように動く方がよっぽど安楽だ。けれどもそれが、幸せといえるのだろうか。

と、支配される人の心理、独占禁止法によって批判されるべき商売人の心理が説明されています。

 さらに、この考え方は、親子関係についても問題となり、作品の後半の方で、主人公の白熊が母親から、「警察は危険だからやめろ(警察を志望するのはやめろ)」と言われたこと、その母親の支配を受け入れてしまっていたこと、警察をやめるよう言っていたことが支配者である母親のエゴであることを看破する場面でも表れています。

 そのため、この作品で描かれている大きなテーマはパターナリズム(あなたのためにあなたの自由を制限するという思想)と対峙する個人の自由でないかと思われます。支配者の意向に従っていたのでは自由や幸福を手にすることはできない。にもかかわらず、人は支配者のパターナリズムを受け入れてしまうという著者の人に対する見方だと思われます。

 

 個人的には独占禁止法の概要についての学びになるかと期待したのですが、それはほとんどありませんでした。反対にいえば、独占禁止法についての知識がなくとも読みやすいということなので、独占禁止法の中身など堅苦しいことを考えずに読める内容になっています。(独占禁止法の学習になると考えている私が間違っているのですが…)

 あと、著者の新川帆立は弁護士だったよう(麻雀でも段位を持っているとか)で、著者の経歴やこの作品のように小説でも評価されているところに作者のすごさを感じてしまいます。

 

 

 

コミカライズもあるようです。