ロープラクティス商法 事例16
今回は株式の有利発行についての問題です。
この辺りは、株式の額の算定などのややこしい問題はありますが、その点と関連して、学習しておきたいです。
下書き
株式の有利発行により株式発行を差し止めるには、①株式の有利発行であることの認定、②有利発行の際の手続の履践の不備の認定、③会社法210条1号該当の認定
会社法199条3項、200条、201条1項によれば、有利発行についての特別のルールを定めている。
東京地裁平成16年6月1日決定によれば、会社法199条3項の「特に有利な発行価額」とは、公正な発行価額よりも特に低い価格の発行をいう。そのうえで、公正な発行価額は、最高裁昭和50年4月8日判決によれば、「発行価額決定前の当該株式会社の発行価格、右株式の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状況、収益状態、配当状況、発行済み株式数、新たに発行される株式数、株式市場の動向、これから予想される新株の消化可能性等の諸事情を考慮し、旧株主の利益と会社が資本調達を実現するという利益の調和に求められる」とされている。
→本件事案においては、株価の動向から考えて明らかにこの株価を下回っており、公正な価格よりも特に低い価格ということができる。
東京地裁平成16年6月1日決定によれば、自主ルールにより算定された価格も合理的な価格になるとされている。
→本件事案における株式の価格は子の自主ルールにより算定しても、自主ルールの価格を下回っており、とくに低い価格に発行であるといえる。
そのため、本件事案においては、有利発行が行われたということができる
会社法201条1項によれば、有利発行を行う場合株主総会の特別決議を得なければならない
また、会社法199条3項によれば、有利発行を行う場合、株主総会において、有利発行を行う合理的な理由を説明しなければならない。
→本件事案においては、株主総会が行われていない。
そのため、会社法210条1号により株式発行の差し止めを請求することができる。
答案
1.有利発行の認定
(1)会社法199条3項の「特に有利な価格」とは、公正な発行価格よりも特に低い価格の株式発行を指す。この公正な発行価格は、発行価格決定前の当該株式会社の発行価格、発行済み株式数、新たに発行される株式数、株式市場の動向等を総合考慮することによって決まるとされている。
本件事案において、Yは普通株式770万株を1株393円で発行する旨の株主総会決議を行っているが、この株式の価格が公正な発行価格によるものか検討する。
本件新株発行の決定を行った平成29年5月ごろの株式の株価は1株1000円台で推移しており、この株式の価格と比較しても393円という株式の価格は低く、発行済み株式数は1630万株、新たに発行する株式数は、770万株という状況であり、発行済み株式数に対して、新たに発行する株式数は多いという状況にあった、また、Y社株式の株価は上昇傾向にあり、6か月間の平均株価を計算しても720円67銭と393円を上回っていた。そのため、Y社の発行価額として、393円は明らかに公正な価格ではなく、特に低い価格の新株の発行ということができる。
(2)また、公正な発行価格として、自主ルールにより算定することもできるとされている。
本件事案における新株発行価格は、自主ルールにより算定される価格である909円、自主ルールの但書によって認定される平均価格に0.9を乗じた価格である650円より下回っているため、公正な価格よりも特に低い価格の新株発行ということができる。そのため、会社法199条3項にいう「特に有利な価格」による発行ということができる。
(3)したがって本件事案におけるY社の株式発行は有利発行ということができる。
2.有利発行の規制
会社法199条3項の新株発行にあたる場合、会社法201条1項によれば、株主総会決議を要するとされており、また、会社法199条3項によれば、株主総会において理由を説明しなければならないとされている。
本件事案において、本件新株発行を行うにあたって、株主総会決議による承認はされていないことから、本件新株発行は会社法199条3項及び会社法201条1項違反があったということができる。
3.したがってYには会社法210条1号の株式の発行についての法令違反があるということができ、Xは新株発行の差止を行うことができる。