ロープラクティス商法 問題33

ロープラクティス商法の33問を解いていきます。

この問題は取締役の違法行為に対する差止請求に関する問題です。

 

Law Practice 商法〔第4版〕

Law Practice 商法〔第4版〕

  • 作者:黒沼 悦郎
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 単行本
 

 

 1.会社法360条1項によれば、取締役が違法行為を行い、又は違法行為を行うおそれがある場合で、その違法行為によって会社が著しい損害を被るおそれがある場合には6か月以上前から株式を有する株主は違法行為の差し止めを請求することができるとされる。なお、監査役会設置会社の場合は、著しい損害ではなく、回復することのできない損害に限定される。

(1)本件事案において、Aは創業以来3万株を有しているため、6か月以上前から引き続き株式を有しているといえる。

(2)本件新株発行の効力が生じるのは払込日である平成29年4月30日であることから、乙社株式の総数引受契約の履行が行われる恐れがあるということができる。

(3)会社法362条1号によれば、重要な財産の処分を行う場合取締役会の過半数に議決によらなければならないとされる。重要な財産に該当するかどうかは、目的物の価額、総資産に占める割合、処分の目的、これまでの使用の態様などを総合的に考慮して判断される。

 本件事案における乙株式の総数引受契約の対価は1億2500万円と高価である。また、総資産10億円の甲社の10パーセントを占めることになる。さらに、このように支払いを行うのは取引相手の乙社の保護と甲社のブランド価値の維持のためである。また、1億2500万円というものは不採算事業を撤退させてまで捻出していることから、遊休資産の対価であるということができる。したがって、乙株式の総数引受契約の締結は重要な財産の処分に該当するということができる。

 また、本件事案において、Bは総数引受契約の承認を得るにあたって、C,D,Eから個別に承認を得ているが、このような持ち回り決議というものは取締役会を開催することなく行われており、取締役間の意見交換の機会を奪うものであることから、会社法上の取締役会に該当しないと考えられている。

 したがって、本件事案における総数引受契約は会社法362条4項1号に違反して行われようとしているということができる。

(4)また、これによって、甲社が運営してきた4か所の店舗のうち2店舗撤退させることとなり、さらに、有望な一店舗の展開をあきらめさせていることから、回復できない損害が発生するということができる。

(5)したがって、Aは甲社に総数引受契約の履行をやめるよう請求することができる。

2.よって、Aは会社法386条1項1号に基づき会社法360条1項の違法行為の差し止め請求を監査役に対して請求し、総数引受契約の差し止めを請求することができる。