ロープラクティス民事訴訟法 発展問題16

ロープラクティス民事訴訟法の発展問題16を解いていきます。

 

Law Practice 民事訴訟法〔第3版〕

Law Practice 民事訴訟法〔第3版〕

  • 作者:山本 和彦
  • 発売日: 2018/01/11
  • メディア: 単行本
 

 

 1.XはYに対して不法行為に基づく損害賠償請求として月20万円の賃料相当額の支払いを求める前訴を提起し認められたにもかかわらず、後訴において月50万円の賃料相当額の損害賠償請求を行っているが、このような後訴が、既判力の作用により遮断されないか検討する。

(1)民事訴訟法114条1項によれば、既判力は主文に包含されるものに限り発生するとされる。

 本件事案において、XのYに対する不法行為に基づく賃料相当額である月20万円の支払いを求める訴えは認められたのであることから、XのYに対する月20万円の賃料相当額の支払いを認めるとの範囲で既判力が発生しているといえる。

(2)既判力の作用する訴訟物は前訴訴訟物と同一、先決、矛盾関係にある訴訟物について作用するとされる。

 本件事案における前訴訴訟物はYの不法占拠を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求であり、後訴の訴訟物もYの不法占拠を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求であることから、同一関係にある訴訟物であるといえる。

 そのため、後訴は既判力の作用する対象であるといえる。

(3)既判力はその作用として、前訴確定判決の既判力と矛盾する主張を再度行い争うことを認めないとする作用がある。

 不法行為に基づく損害賠償請求はその行為によって発生する損害の一切について請求することを内容とするものであることから、その後に損害が拡大していたとしてもその損害は損害発生時に発生したものとされる。そのため、前訴において損害賠償請求を認める判断がなされ確定した場合、さらに損害が拡大したとしてもその拡大した損害部分を含めて判断しているため、後訴で増額した損害部分を請求することは前訴の既判力と矛盾する。

 本件事案においてXは賃料相当額が増加したことを理由として月50万円の賃料相当額の支払いを求めて後訴を提起しているが、前訴においてこの増額分を含めて賃料相当額は月20万円と判断していることから、前訴既判力と矛盾するといえる。

 したがって、Xの後訴は既判力の作用により認められない。

2.また、前訴において黙示の明示的一部請求がなされたとして前訴既判力を縮減することは考えられるものの、賃料増額の原因となった駅の建設は口頭弁論終結時に発生したものであることから、前訴が黙示の明示的一部請求であったとみることはできない。

3.そのため、Xの後訴は前訴の既判力の関係で許されない。