平成27年司法試験商法

平成27年司法試験の商法を解きました。

 

 

 設問1

1.甲は、Bに対して会社法423条に基づき損害賠償請求を行っているが認められるか検討する。

(1)会社法423条1項によれば、会社の取締役が任務懈怠を行い、会社に損害を与えた場合、損害賠償責任を負うとされる。また、会社法356条1項1号、会社法365条によれば、取締役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をした場合で、取締役会の承認を得なかった場合、取締役の忠実義務違反行為となるとされている。事業の部類に属するかどうかは、事業の目的や、市場で判断される。

(2) 本件事案において、甲社の事業は、乳製品及び洋菓子の販売を目的とするものであり、乙社も洋菓子の販売を目的とする会社であることから、事業の目的は同一であるといえる。また、甲社は、首都圏で活動しているものの、関西地方への進出を企図している。さらに、甲社は市場調査も実施している段階にあったため、関西圏で洋菓子の販売を行う乙社の市場とも競合しているといえる。

 Bは甲社の取締役であるにもかかわらず、乙社の90%の株式を有する株主として乙社のために、Q社よりQ商標を買い受けている。そのため、第三者の他ために取引を行ったといえる。また、菓子につける商標というものも菓子の販売戦略に関わるものであるため、事業の範囲内のものといえる。

 したがって、Bは競業取引を行ったといえる。

(2)また、Bが協業取引を行ったことによって甲社は関西地方への進出を断念しており、それによって損害が発生しているといえる。

 損害については、会社法423条2項によって第三者が得た利益の額であると推定される。本件事案において、乙社が得た利益は、一年間の事業年度で成長した分の800万円である。そのため、甲社には800万円の損害が発生したということができる。

(3)さらに、Bは後者のこのような取引を行うに際して甲社での取締役会の承認を得ていない。

(4)そのため、Bは会社法423条1項に基づき800万円の損害賠償責任を負うといえる。

2.また、甲は、Bに対してEの引き抜きを行ったことを理由として会社法423条1項に基づく損害賠償請求を行うことを考えているため検討する。

(1)会社法423条1項に基づく損害賠償請求を行うためには、取締役が任務懈怠行為を行い会社に対して損害を与えたといえなければならない。また、会社法355条上取締役は忠実義務を負っていることから、忠実義務違反行為があった場合は任務懈怠を行ったとされる。

 取締役は会社法355条上忠実義務として、会社にとって重要な使用人の引き抜きを行ってはならないとされている。

 本件事案において、甲社より引き抜かれたEは、洋菓子工場の工場長を務める者であり、甲社の洋菓子製造についてのノウハウも有している者であったということができる。さらに、洋菓子を含めた食品の製造においては、味などのノウハウは経営を左右するため、このようなノウハウを有する使用人のEは甲社にとって重要な使用人であったということができる。

 にもかかわらず、BはEを引き抜き乙社に転職させていることから、Bは甲社の重要な使用人の引き抜きを行ったということができる。そのため、忠実義務違反行為を行ったといえる。

(2)また、これによって甲社の工場の操業が止まり、300万円の損害が発生している。

(3)よって、Bは甲社に対して300万円の損害賠償責任を負う。

設問2

1.S社は甲社の行った第一取引と第二取引は事業譲渡に当たるにもかかわらず、株主総会を経ていないため、甲社の行為は違法な事業譲渡であると主張することが考えられる。

(1)会社法467条1項2号によれば、事業の重要な一部の譲渡を行う場合、会社法309条2項11号に基づき株主総会の特別決議を行わなければならないとされる。また、事業の重要な一部に当たるか否かは、譲渡により譲り渡す資産の帳簿価格が株式会社の総資産として会社法施行規則134条に定める方法により算定された額の5分の1を超えるものである場合に限られるとされている。

 第一取引の価格と第二取引の価格を合わせると、2億5000万円であり、総資産額の7億円の5分の一を超える。

(2)事業譲渡の事業に当たるといえるためには、会社の有機的一体となった組織であり、会社法22条の競業避止義務を負うものと解されている。本件事案における第一取引は洋菓子工場に係る土地及び建物の売却であるが、これは、洋菓子事業と一体となったものであるため、会社法22条によって競業避止義務を負っているといえる。そのため、事業に当たる。

 また、商標権も会社の有機的一体となったものであるため、会社法22条の競業避止義務の対象となるものといえる。そのため、事業に当たる。

(3)よって、甲社は会社法467条1項2号の事業譲渡を行ったといえるものの、株主総会の承認を得ていない。

2.したがって第一取引、第二取引は会社法467条1項に違反する取引であるといえる。

設問3

1.甲社は、Gに発行した1000個の新株予約権の上場条件を廃止したうえで、Gの新株予約権の行使を認めているが、このような新株の発行が認められるか検討する。

 会社法236条1項7号によれば、新株予約権の行使条件を付することができるとされている。この際、会社法239条1項に基づいて募集事項の決定を取締役に委任することができるとされている。また、会社法239条1項によれば、会社法238条の規定にかかわらず取締役会に委任できるとされていることから、会社法238条に基づく決定に関係なく条件を定めることができると解される。

 本件事案において、募集新株予約権の行使条件は甲社の取締役会に一任することとされていることから、会社法239条1項に基づく募集事項の決定の委任がなされたということができる。この決定に基づき甲社において上場条件が設定され、のちに廃止されている。そのため、上場条件を廃止して新株の発行を行ったことについて会社法238条の決定に基づく違反はないといえる。

 したがって、上場条件を廃止してGに対し新株を発行したことについて会社法に違反することはない。

2.次に、会社法247条2号の不公正発行に当たり、差し止められるか問題となる。

 不公正発行であるといえるためには、もっぱら会社の経営権の支配維持目的で新株予約権の発行を行ったといえなければならない。

 しかし、Gに発行した新株予約権の数は1000個であり、Aらの取締役と比較すると少ない。そのため、甲社経営支配権の支配維持目的ではないということができる。

 したがって、不公正発行であるともいえない。

3.よってGへの新株の発行は適法なものといえる。