ロープラクティス商法 問題40

ロープラクティス商法の問題40を解いていきます。

この問題は法令遵守義務違反に関するものです。

 

Law Practice 商法〔第4版〕

Law Practice 商法〔第4版〕

  • 作者:黒沼 悦郎
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 単行本
 

 

 1.会社法423条1項によれば、取締役が任務懈怠行為を行い、会社に対して損害を与えた場合、会社に対して損害賠償義務を負う。この任務懈怠の内容として、取締役は会社法355条に基づいて法令遵守義務を負うとされる。法令遵守義務の対象となる法令については、商法だけでなく、会社の業務に関する法令一切が含まれるとされる。

 食品衛生法は食品の販売を行う企業に対しても適用されることから、食品の小売販売を業とするA社も事業の運営上遵守すべき決まりであるということができる。

 本件事案において、A社取締役らは甲国のB社の工場で製造された焼売を輸入し日本国内で販売しているが、この焼売には日本の食品衛生法上禁止される食品添加物が含まれていたというのであるため、A社取締役は日本の食品衛生法に違反した行為を行ったということができる。

 したがって、A社取締役は会社法355条の法令遵守義務に違反した行為を行ったということができる。

 これに対して、食品衛生法違反の事実を知りながら食品の廃棄を行うかどうかというのは会社の高度な経営判断に属する事柄であることから、経営判断原則が適用されると主張することが考えられる。しかし、法令を遵守すべきかどうかは一義的に遵守すべきと決まっていることから、他の選択を行う余地がないため、会社の経営判断に属するとは言えない。

 そのため、経営判断原則は適用されない。

2.法令遵守義務違反を行った取締役のうちだれが責任を負うか検討する。

 A社取締役Y1は食品衛生法違反の事実を発見したにもかかわらず、焼売の販売中止や、在庫品の破棄をやめるよう求めた取締役であるため、法令遵守義務違反行為を積極的に行った取締役であるといえる。そのため、会社法423条1項の責任を負う。

 Y2はY1より食品衛生法違反の事情を聴き、Y1の提案をそのまま受け入れていることからY1と共同して法令遵守義務に違反した行為をしたとして会社法423条1項の責任を負う。

 Y3は代表取締役であることから、会社法349条1項上包括的な責任を負うとされる。そのため、会社法423条1項の損害賠償責任を負う。

 これに対して、Y3は信頼の原則から自身が責任を負わないことを主張すると考えられるものの、Y3はY2のみではなく、Y1や関係者に問題解決の実態を聞くこともできたと考えられることから、信頼の原則を適用させる場面ではないと考えられる。

 したがって、Y1、Y2、Y3は会社法423条1項の責任を負うといえる。

3.これらの会社法上の義務違反によって会社にどのような損害が発生したのか検討する。

 A社が食品衛生法違反の行為を行ったことから、在庫品の廃棄費用3億円、営業補償としての50億円、信頼回復のためのキャンペーンの費用として20億円、営業利益の一室として20億円、罰金20万円が発生している。また、食品衛生法違反の事実を隠ぺいするために5000万円がCに支払われていることから、この5000万円についても損害として認められる。

 よって、合計で93億5020万円についての損害が発生したということができる。

4.したがって、Y1、Y2、Y3は会社法423条1項に基づき、93億5020万円の損害賠償責任を負う。