ロープラクティス商法 問題38

ロープラクティス商法の問題38を解いていきます。

この問題は北海道拓殖銀行事件を基にした経営判断原則に関する問題です。

 

Law Practice 商法〔第4版〕

Law Practice 商法〔第4版〕

  • 作者:黒沼 悦郎
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 単行本
 

 

 1.会社法423条1項によれば、取締役が任務懈怠を行い、それによって会社に損害を与えた場合、会社に対して損害賠償義務を負うとされる。

 ただし、任務懈怠行為の対象が会社の高度な経営判断に任せられるべきものである場合、合理的な判断過程を経て、合理的な判断を行ったといえない場合に限り損害賠償責任を負うとされる。

(1)まず、第一融資に関してA銀行は十分な担保を取得すべきであったにもかかわらず、十分な担保を取得しなかったため、A銀行に190億円の損害を与えているが、この行為が任務懈怠に該当するか検討する。

 銀行の融資判断というものは銀行の経営判断に関わるものであるから、銀行の経営判断に任せられるべきものであるということができる。そのため、B銀行の融資判断が合理的な判断過程を経て合理的な判断に基づくものであったといえるか検討する。

 本件事案において、A銀行は資本金500億円のB社に200億円の融資を行うにあたり、B社株式を担保としているが、株式を担保とするということは、対象となる会社の業績が悪化し、株価が低下した際にそのリスクを負うということである。そのため、会社の業績から十分な担保といえるか判断しなければならない。

 本件事案におけるB社株式を一気に売却するとB社株式が暴落するおそれがあり、この暴落を回避する手段が検討されていないということが言えるものの、B社の資本金は500億円であり、B社の売り上げも急伸している状態にあり、融資をすれば、B社を含めた地域の経営者のビジネスチャンスにもつながることからB社に融資をしても資本金などから融資額を回収することができる可能性があったということができる。そのため、B社の株式を担保としてB社に200億円の融資を行ったA銀行の判断の過程にも内容にも不合理な点があったとは認められない。

 したがって、第一融資について任務懈怠は認められない。

(2)次に、第二融資はB社の経営が悪化した状態における融資であるが、この状況でも経営の回復を図るために銀行が貸付を行うことが考えられることから、融資の判断はA銀行の経営判断に属するということができる。しかし、この場合、融資の目的から、会社の経営状況の改善が合理的に見込めるものであるといえなければならない。そのため、経営判断の過程及び内容の合理性を判断するにあたって、会社の経営状況の改善が合理的に見込まれるかが考慮されなければならない。

 本件事案において、B社は900億円の債務超過から立ち直るために400億円の融資を求めているが、B社のリゾート会員権の販売はキャンセルが相次いでおり、リゾートの経営によって10年後に黒字に回復することが見込まれると主張しているものの、この際に将来の収益予想がされていたとは認められない。そのため、B社の経営状況の回復が合理的に見込める状況にはなかったと認められる。

 そのため、A銀行の第二融資の融資判断の過程及び内容は不合理であるということができ、A銀行はB社の収益状況の改善について十分な検討を行うべき義務を怠り不合理な融資を行い、銀行の任務を懈怠したということができる。

(3)また、この第二融資によって、370億円の損害が発生したことから、会社法423条1項に基づいて取締役が損害賠償責任を負う。

(4)取締役のうちだれが責任を負うか検討する。

 Y1はA銀行の代表取締役であることから、会社法353条に基づき会社の業務について監督すべき包括的義務を負っていたということができる。にもかかわらず、この任務を怠り、370億円の損害を発生させていることから、会社法423条1項に基づいて損害賠償責任を負う。

 Y2はA銀行の取締役であるものの、預金業務を担当する取締役であり、融資業務を担当するものではない。しかし、会社法362条2項2号によれば、取締役の職務の執行の監督を追っているとされているため、この監督義務を怠ることによって、A銀行に370億円の損害を与えたということができる。そのため、会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負う。

 Y3はA銀行の社外取締役であるため、会社法362条2項2号によって取締役の監督義務を負っている。にもかかわらず、この義務を怠りA銀行に損害を与えたということができるため、会社法423条1項に基づく損害賠償責任を負う。

2.したがって、Y1,Y2,Y3は会社法423条1項に基づき370億円の損害賠償責任を負う。