ロープラクティス商法 問題44

ロープラクティス商法の問題44を解いていきます。

この問題は登記簿上の取締役に関する問題です。名目上の取締役となった人と辞任したものの取締役としての登記が残っている人とでは扱いが違うので注意が必要です。

 

Law Practice 商法〔第4版〕

Law Practice 商法〔第4版〕

  • 作者:黒沼 悦郎
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 単行本
 

 

 1.会社法429条1項によれば、取締役の第三者に対する損害賠償請求を行うためには、取締役が任務懈怠行為を行ったといえなければならない。

 そのため、登記簿上取締役として登記されているY1、Y2が責任を負うかが問題となる。

(1)会社法911条3項13号によれば、取締役については登記をしなければならないとされており、会社法908条1項によれば、登記をしなければ第三者に対抗できないとされる。しかし、会社法908条2項によれば、故意または過失によって不実の登記をした場合には不実の登記であることを理由として善意の第三者に対抗することができないとされる。

 本件事案において、Y1はA社の取締役となるようBに懇願されたため、取締役となることを承諾している。そのため、Y1を取締役とする株主総会決議がないにもかかわらずY1がA社の取締役として登記されている。そのため、Y1は故意に不実の登記を行ったということができる。また、A社の取引先のXはY1が取締役でないことについて善意であると考えらえることから、Y1は自身がA社の取締役でないことについてXに対抗することができない。

 よって、Y1は会社法429条1項の取締役に該当するということができる。

(2)会社法908条2項によれば、故意または過失によって不実の登記をした者は不実であることをもって善意の第三者に対抗することができないとされている。ただし、辞任したにもかかわらず辞任の登記がされていないのは会社が登記手続きを行わなかったためである場合もあることから、登記が残っている場合については故意に登記を残していたなどの特段の事情のない限り故意または過失によって不実の登記をした者に該当するとは言えない。

 本件事案において、Y2はA社取締役を辞任したにもかかわらず登記を残存させていることから不実の登記を行った者ということができる。しかし、このようにY2の登記が残っているのは、Y2がA社の取締役を辞任する旨を受けA社が承諾したにもかかわらず、登記を残したためである。さらに、Y2はこの際登記を抹消するよう求めているため、Y2の故意または過失により不実の登記が残存したということはできない。

 よって、Y2は会社法429条1項の取締役に該当するということができない。

2.会社法429条1項の損害賠償責任の追及を行うためには取締役が任務懈怠行為を故意または重過失によって行い第三者に損害を与えたということが言えなければならない。

 本件事案において、Y1は会社法362条2項2号上監督義務を負うにもかかわらず選任されて以来業務をBらに任せきりにしていることから、重過失により監督義務を怠ったということができる。

 また、X社が損害を被っているが、A社には事実上代表取締役であるBを監督するものが居なくなっていたことから、Y1が監視し、反対したところでBの乱脈な経営を阻止することはできなかったと考えられる。

 そのため、Y1の任務懈怠とXへの損害との間に因果関係はない。

 よって、Y1もY2も会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負わないため、Xの請求は認められない。