今回の問題は、会社の自己株取得に関する問題です。
自己株取得については判例が少ないので、これからの議論に期待されます。
下書き
設問(1)
会社が自己株の取得を自由に行うことができるとすれば、①資本維持が害される、②株主の平等が害される、③支配の公正が害されるという弊害が生じる。
そのため、自己株の取得について手続き違反のある場合には、瑕疵の軽重を問わず無効となる。
→本件事案において、自己株取得の際に、会社法160条2項の通知を株主に対して行っていなかったため、Y社の自己株の取得について手続き違反があったといえる。
そのため、Y社はXに対して自己株の取得が無効であることを主張できる。
設問(2)
自己株の取得について手続きに違法があれば、自己株取得の無効を主張できる
東京高裁平成元年2月27日判決によれば、以下のように判断されている
また、規制の趣旨は、会社財産の充実を危うくすることを防ぎ、会社、会社債権者及び一般株主等の利益を保護することにあること
原則として自己株取得の無効を主張できるのは、会社のみに限られる。
しかし例外的に譲渡契約が履行されることによって契約目的を達成することができるのであるから、これによって譲渡人の正当な利益が害されるなど株式譲渡契約を無効として譲渡人を保護すべき特段の事情のある場合に限り譲渡人からの譲渡契約の無効を主張できる。
→本件事案において、原則であれば、譲渡人であるXは自己株の取得について無効を主張できないが、株価の急騰という事情があるものの、譲渡人の正当な利益とはいえないため、Xは無効主張ができない。
解答
設問(1)
1.会社法155条以下の規定により、自己株取得ができるとされているが、自己株取得は、①資本維持が害されること、②株主の平等が害されること、③支配の公正が害されること、④株式取引の公正が害されることから限定的にしか認められていない。そのため、会社法上の自己株取得の規定に違反した場合には、その自己株取得の効力は無効であるとされる。
本件事案においてYはXのY社株式について自己株取得しているが、会社法160条2項の売主追加請求について株主に通知を発していなかったことが認められる。そのため、Y社の自己株取得は会社法160条に違反するものとして、無効となる。
2.したがって、YはXに対して自己株取得の無効を主張することができる。
設問(2)
1.会社法155条以下の自己株取得の規定に違反した自己株取得の効力は無効出る。この無効主張については、自己株取得は、会社資本の減少によって会社や、一般株主、会社債権者を害することになるため、原則として、会社のみが主張することができると考えられている。しかし、譲渡契約が履行されることによって譲渡人の正当な利益が害される場合、譲渡人を保護すべき正当な理由があるといえるため、譲渡人による自己株取得の無効主張ができる。
本件事案において、Xの自己株取得について会社法165条2項違反があるということはできるが、Xは自己株の譲渡人であるため、通常無効主張はできない。本件事案において、Y社株式の価格が上昇しているものの、この事実は譲渡契約が履行されることによって譲渡人の正当な利益が害される事情とはならないため、譲渡人による自己株取得の無効が主張できる場合にあたらない。
2.したがって、XはYに対して自己株の譲渡の無効を主張することはできない。